一章 第二話

鍋の蓋の付喪神との戦いの翌日。

如月のもとを訪ねてくる人がいた。

日がそろそろ落ちるという時間帯だ。


「へぇ、鍋の蓋の付喪神ですか。珍しいですね」


そう言ったのは桔梗光里ききょうひかりである。

如月のもとにたまに来る、数少ない人物の一人である。

今も、如月の話に目を輝かせている。


「付喪神自身も言っていたが、まな板のように使われた恨みらしい」

「鍋の蓋をまな板に、、ですか。付喪神も変わってますけど、そうやって使った人も変わっていますね」

「道具には道具としての誇りがある。違う使い方をされれば、恨みになってしまうということだ」


付喪神は負の感情から生まれるが、その負の感情にもいろいろあるのだ。


「で、桔梗は俺の話を聞きに来たわけではないだろう」

「ええ、久しぶりに如月さんと稽古をしようと思って」


そう言って、桔梗は刀を抜いた。


「真剣でやるのか」

「ええ、できるだけ実践に近い形でやりたいので」


桔梗が斬りかかってくる。

如月は抜刀と同時に斬りつけた。


「相変わらずの速さですね」


躱しながら桔梗が言った。


「そうでもない。もう少し速くできる」


如月は速度を上げた。


「本当に速くできるんですね」

「信じてなかったのか」


キンキンキン!!!


刀と刀がぶつかり合う。


「如月さん、もっと本気でやってください」

「そうは言ってもな、、、」


桔梗の言うとおり、如月は躊躇していた。

稽古とはいえ、女性を傷つけることに。


(仕方ないな、、、)


如月は覚悟を決め、刀を構える。

桔梗も、如月のまとっている雰囲気が変わったのを感じたのか、手足が震えている。


「行くぞ、桔梗」


先ほどよりも速く、強く刀を振るった。


「くっ、舞刀術ぶとうじゅつ 三日月みかづき


桔梗が、苦し紛れに技を放つが、如月が振り上げた刀によって弾かれる。

如月は、刀を弾き飛ばしたのを確認してから、桔梗に刃を向けた。


「俺の勝ち、、、でいいよな」


桔梗はハァ、ハァ、吐息を荒くしていて、答えることができないようだった。


「前よりは強くなっていたけどな」

「そうじゃないと、困るんですけどね」


息を整えた桔梗が返事をした。


「まあな。俺たち『導き手みちびきて』は強くなければならない。文字通り、他の剣士を導く存在だからな。だからこそ、日々の鍛錬を怠ってはいけない」

「そうですね」


『導き手』というのは、『付狩り』の上に立つ人間のことである。

実力はかなり高く、より強い付喪神たちを討伐してきた。



その時、透明な生き物がプルプルと震えだした。

この生き物の名を、水玉みずたまという。

水玉はとてもプルプルとした謎の生き物だ。


「如月さん、指令ですか。水玉が震えてますよ」

「ああ、指令だ」

「気を付けて。紋様持ちかもしれませんので」

「ああ。一般剣士がすでに交戦している。急がなければ」


如月はそう言うと、如月邸から去っていた。

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