再会

くんくん、すんすん。

 俺は今、詩織に着ているパーカーを掴まれ匂いを嗅がれていた。

 昔と比べて縮まった身長差と黒く長い髪からふあっと香る若い女性特有の甘い香りにどうしても背徳的な気持ちになってしまう。

「詩織、その変な癖をやめないか?」

「別にいいじゃん。」

 何がいいのか。

 この通り詩織にはこの通り結構特殊な性癖がある。

 人の匂いを嗅ぐのが好きで、昔はよく外から来た観光客の人の匂いを嗅いで俺が何度頭を下げたことか。

「また人に迷惑をかけてるんだろ?」

「もうゆうちゃんにしかやらないから大丈夫だって。」

「もっと大丈夫じゃないが?」

「それよりも入っちゃってよ。」

 俺が呆れていると詩織は俺の手を引いて家の奥へと連れて行こうとする。

 靴をパタパタと脱いで玄関を上がり居間へと続く廊下を歩いていくと、家の中にあるはずの人気ひとけがないことに気づいた。

「親父さんは何処行ったんだ?」

「村の外に行ってるよ。もうすぐゴールデンウィークだから忙しいんだってさ。」

 あとで聞いた話だが、4年前から親父さん―詩織のお父さん―はイベントプランナーなる仕事をしていて、大型連休の前になると休日でも休みが取れなくなるらしい。とんだブラックな会社だ。

 引き戸のあるリビングに入るとき、つい学生の時の癖で失礼しますと言ってしまう。

 俺は適当なところにリュックサックを置くと、ふかふかなソファーの上に頭からダイブした。

 声のする台所からちょろちょろと水音が聞こえてくる。

 少しすると俺の頬にぴとっと冷たい感触が押し当てられた。

 顔を上げるとにやりと微笑む詩織の顔が近くにあった。

 からん、からん。

 どうやら麦茶を汲んでくれたようだ。

 それを受け取り一気に飲み干す。

「っあ~、うめ~。」

 俺はコップを机に置くと、一連の動作で詩織の頭をなでる。

 詩織は嬉しそうに目を細めている。

 こいつも表情が豊かになったよなと今更ながらに思う。

 昔はもっと無表情だったと記憶しているが。

 っと、いつまでもこうしているわけにはいかない。

 この家に来たのは、昔の俺の家を片付けるまでの間借りのようなものなのだから。

「じゃあちょっと片付けてくる。」

 そういって家を出た。

 ドクン。

 家を出たとたん、心臓の鼓動が早くなった。

 焦燥感にも似たこの感覚は、先ほど家に入る前も感じていた。

 その時、しゃんしゃんと鈴の音が何処か遠くの方から聞こえてきた。

 行ってみるか。

 俺は音のなる方へ歩みを進めた。





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