帰路

 皆川優太を待ち受けていたのは、どうしようもなく感じの悪い寝起きだった。

 あんな夢を見たせいで目には涙が走ったあとが残り、口の中は粘ついているような気がする。

 バスの座席で寝たせいで、背中がひしひしと痛む。

 窓を見やると思いの外時間は経ってなかったようで、あまり見覚えのない景色が広がっていた。

 寝起きのモヤモヤを取り除こうと水筒のお茶を含むが、背中の痛みは残ったままだ。

 突然隣りに座っていたおばあさんが声をかけてきた。

「あんた、ゆうちゃんかい?」

 このおばあさんには見覚えがあった。

 昔、俺の住んでいた村で駄菓子屋を営んでいたトヨおばちゃんだ。

「トヨおばちゃん、久しぶり。元気にしてた?」

「そうかい、そうかい、おっきなったねぇ。」

 トヨおばちゃんはたくさんしわのある手で俺の手を握り、上下に振ってくる。

「ようやっと帰って来たんかい。よう帰ってきたねぇ。」

 その言葉を聞いて俺は改めて帰郷の実感をした。

「うん、そろそろ帰っとかんとって思ってね。」

 俺はふと気になったことを口にする。

「そういえばさ、トヨおばちゃんってまだ店続けてるの?」

 トヨおばちゃんは渋った顔をするが、口を開く。

「店を続けるにはもう年でね。もう畳んだよ。」

「…そっか。」

 少し寂しい気持ちがあると同時に、物事の摂理のような気もする。

 その後もトヨおばちゃんと他愛のない話をしていると、村の入口が見えてくる。

 今乗っているバスは一日に二本しか運行しない、村と外とを繋ぐ唯一のアクセスツールだが、同時に村の入口のある北とこの狭い盆地の中で比較的広い土地が広がる南とを行き来できる交通網にもなっている。

 俺が今日泊まる家は北にあり、トヨおばちゃんの家は南にあるため、俺はここでバスを降りることになる。

 荷物がパンパンに入ったリュックサックを担ぎ上げて降りる準備をしていると、トヨおばちゃんは最後にといった感じで話してきた。

「近頃この村に幽霊が出たらしいからねぇ。気をつけるんだよ。」

「分かったよ。じゃあまたね。」

 そう言って優太はバスを降りた。

 最後に言っていた幽霊はたぬきかなにかだろうとも思ったが、無性に胸騒ぎがした。









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