34 義妹とデート
二人きりになった杏一と柊は恋人繋ぎをしたまま祭りを楽しむ。
杏一が柊の手を引いて行きたいところに連れて行ってあげた。
「おにぃちゃん、次かき氷食べる」
柊が繋いでない方の手で水ヨーヨーをぽよんぽよんさせて言った。女の子と水ヨーヨーはどうしてこうも合うのだろう。これも一種のマリアージュだ。
「ちょうどそこにあるな。一緒に食べよ」
一度手を離し、すいませーんと屋台のオジサンに声をかけて三百円を手渡す。柊はあまり店員と話すのが得意ではなく、杏一の後ろに隠れるようにしていた。
祭りはスキンヘッドで強面の男性が多いなと思いながらメロン味を一つ貰う。
「はい柊。あーん」
スプーンですくって柊の口に入れてあげる。
柊はぱくっと食べるとこめかみを抑えて笑った。
「ちゅめたい。でもおいち」
「よかった。俺も食べたい」
スプーンを柊に渡すと、今度は当たり前のように食べさせてくれる。
「うん。美味しい」
「ふふ、おにぃちゃん舌ベロ緑だよ」
「柊もだよ。お揃いだな」
べーっと出し合ってけたけた笑う。
杏一はキスしたくなったが今はまだこらえた。
「次は何食べよっかなー」
「まだ食べるのか。さっきトウモロコシと焼きそばとたこ焼き食べてたじゃん」
「で、デザートは別だもん」
むくっと風船になってしまい、お腹を気にし始める柊。抱きしめたいが杏一は我慢する。代わりにほっぺを親指と人差し指で挟んでタコみたいな顔にしてあげた。
「うぅぅ! やめちぇよぉ」
「可愛い。たくさん食べていいよ」
「うんっ。あ、でもでも、おにぃちゃんの料理の方が美味しいからね?」
「ありがと。柊はほんとにいい子だな」
ちゃんと兄を立ててくれるなんて出来た妹だ。
かき氷の容器を捨てて手を繋ぎ直す。
「ぅ……ごめん、おにぃちゃん。手ベタベタしちゃってる」
夏だし歩いていれば汗もかく。
手を繋いでいれば尚更だ。
恥ずかしがってしまったが、杏一は手を繋ぎたいためフォローする。
「俺だってそうだし、柊ならぬめぬめしてても気にならないよ」
「な、なんか久しぶりに気持ち悪い事言うね。でも好き。繋ぐ」
そう言って柊は指を絡ませてきた。
杏一も捕まえるように繋いだ。
「えへへ、デートみたいだね」
「だな。俺の初デートだ」
「私もっ! おにぃちゃんとデートしちゃったぁ」
楽しそうに繋いだ手をぶんぶん振ってくれる。
周りから見ても完全にカップルだろう。兄妹ではなく恋人として祭りの中に溶け込めている。すれ違うカップルたちも同じように、緊張しながら勇気を出して一歩ずつ距離を縮めてこの日を迎えたはずだ。そんな姿を見ていると、自分の気持ちも本物なんだと実感できる。
心の中で、頑張れよと声をかけた。
様々な想いが実りますように。
「どしたの、おにぃちゃん」
「ん? いや、何でもないよ」
「嘘だ。さっきから他の女の人見てるもん」
正確には彼氏の振る舞いを観察していたが、それはそれで語弊があるため黙っておく。
「もぉ……他の人、見ちゃダメ。嫉妬……しちゃうから」
小さくごにょごにょ言っていて聞き取りづらいが、不安にさせたことは分かった。
なら、
「柊」
「んぅ? わぁ──!?」
杏一は熱を測るようにコツンと額をくっつけて、柊だけが視界に入るようにした。まつ毛を数えられるくらい近くて、柊の息が顔にかかる距離。
「ほら、柊しか見てないよ」
「ふにゅっ………恥ずかしぃよ」
「柊が一番可愛いよ。心配しないで」
「も、もぉわかったから離れて。死んじゃう」
杏一もだいぶ無理をしてやったため解放してあげる。
前髪を直してあげて、ハンカチで額の汗も拭いてあげた。
「次は何食べよっか」
「えと……チョコバナナ」
「よし、食べよう」
チョコバナナ、りんご飴、ベビーカステラと二人で分けて食べ歩いた。
りんご飴を一緒に食べるのは随分攻めたことをしたと思ったが、柊も嫌がらなかったためセーフだ。
ここまでで、柊も兄ではなく男として好きでいてくれているとようやく確信を持てた。
あとはそれを口にして、答え合わせをするだけだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます