七十七話 一転、窮地です!
盲点だった。王女はそもそもお金を見たことがなかったか。
「やばいな。こりゃバレるぞ。しかも、一番バレたくなかったところでだ。お前ら、タフな展開になるのは覚悟しておけよ。」
おじさんエルフはさっきまでとは打って変わって鋭い眼光でリリィ王女をにらんでいた。
「お嬢ちゃん、何者だい? それとも、名乗れねえ身分なのかい?」
「王命を拝しております。密命ですので……」
「そりゃあ苦しいぜ。王が金の払い方も知らないやつに密命なんて大役を任せるわけがない。」
ああ、もう半分バレかかっている。完全に王女であることがばれるのも時間の問題だろう。
カティーヌはもうすでに短剣を半分抜いていた。
「僕たちも準備しておいた方がよさそうですよ。」
トルクの言葉に応じて、俺とミヤビも武器に手をかけた。
おじさんエルフは真実に手を伸ばそうとしていた。
「お嬢ちゃん、いい加減教えてくれ。国外に逃げる気なのかい? この国はそんなに悪いところじゃないだろう? それともなんだ。お嬢ちゃんはなにか犯罪でも犯しちまったのかい?」
「いえ、決してそんなことは……」
「じゃあ、なんだっていうんだ。とりあえず、その顔を半分隠しているフードだよ。それ取ってくれないかい?」
「これは、その……外すわけには。」
「もう、じれったいな。後ろめたいことがないっていうのなら、取れるはずだろう?」
おじさんエルフはついにリリィ王女がかぶっているローブのフードに手を伸ばした。
おじさんの手がフードに届きそうになった瞬間、カティーヌは短剣を抜いて、おじさんに斬りかかろうとした。
「ダメです!」
とっさにリリィ王女はカティーヌに体当たりした。
「うわ!」
カティーヌは突き飛ばされ、その上にリリィ王女も倒れこんだ。
「おまえ、なにしてんだ!」
「あなたこそ! あの人はまじめに働いているだけなんです、傷つけてはいけません。」
しかし、一転して窮地に追い込まれてしまった。
「おい! 誰だお前!」
カティーヌの今の行動は攻撃判定だったらしく、『隠密』が解けてしまった。
「ちっ! まずったな。いったん逃げるぞ。」
その場には、関所の兵士たちが大勢いた。戦闘になろうものなら、全滅は必至だ。
カティーヌはリリィ王女を抱きかかえると、走って関所内の建物の中に駆け込んだ。俺たちはまだ敵から姿が見えているわけではないが、かれらを見失うわけにはいかないので、後に続いた。
建物は砦のような構造になっていて、部屋がたくさんあった。隠れやすいのが功を奏して、兵士たちはすぐにカティーヌたちを見失っている。
カティーヌは、倉庫に入った。関所なだけに、武器や防具などの物騒なものも多い。
「おまえ! どうして止めたんだよ!」
カティーヌは倉庫に入るなりそう声を荒げた。
「あなたこそ、どういうつもりですの!」
また喧嘩が始まってしまった。今度は、さっきのおじさんとのことである。
盗賊のカティーヌは迷いなくおじさんエルフを殺そうとした。殺しの善悪はともかく、盗賊としては当然の行動である。
一方で、あのおじさんに罪がないのも事実である。それを殺すのを止めようというリリィ王女も全くもって間違っていない。
「お前が止めるから、こんな状況になっているんだろうが。本当なら一瞬で殺して、隙をついて門を突破することができたっていうのに。」
「そんなやり方いけません!」
「まったく、向こうはオレのことを容赦なく殺そうとするのにな。」
「いいえ? 城にいるときに聞いていましたが、捕まえてもまた牢に戻すだけだと言っていましたよ。」
「そんなことあるかよ。」
「しかし、実際そう言っているのを聞きましたから。」
「おまえ、城の奴の方がオレの言葉よりも信じられるっていうのか?」
「あなた、自分の言葉がそんな信用できると思ってるの? そもそもカティーヌ、あなたは言葉を、人を騙すために使っているじゃありませんか。あなたの言葉は重ねるほどに嘘ですわ。」
あーあ、まったく関係ないところに喧嘩の火種が移っちゃったよ。
二人がやんや言い合っている間にも、建物内では捜索が行われていた。
「どうするんですか? このままじゃすぐにこの倉庫まで探しに来ちゃいますよ!」
「そりゃ逃げなきゃいけないだろ。けどこの二人がな……。」
どうしてこんな状況で喧嘩ができるのだろうか? 心臓が強いのか、それともアホなのか。
「二人とも、ここから逃げましょう。」
「……そうですね。いつまでもこんな所にいてはそれこそ捕まってしまいますね。」
「仕方ないな。話はあとでだ。今は外に逃げるぞ。もう門から通って逃げるのは絶望的だ。」
「じゃあどうやって逃げるんですか?」
「壁を乗り越えていくか、この関所を陥落させてしまうかだ。」
「絶対前者しか無理でしょ!」
兵士まみれの関所を陥落させてしまうなんて現実的ではない。
壁から逃げるプランで行く。
「じゃあ、さっさとこの倉庫から出るぞ。外に出たらオレはまた身を隠す。気をつけろよ、リリィ。」
五人そろって倉庫から出た。
扉をガチャリと開けて足を踏み出したところだった。俺たちは運がなかった。
「ん? 貴様か。侵入者というのは。」
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