九章 国境を越えろ!
七十三話 国外脱出計画!
王妃の伝言に驚くリリィ王女の声は甲高く教会の中に響き渡り、驚いた他のシスターたちがこの部屋に押しかけてきた。
「何事ですか? 凄い声がしましたけど。」
「ああ、いえ。心配ありません。急に虫が飛び出してきて驚いて声を出してしまっただけです。」
「……そうですか。それならよかったです。それより、これこらみんなでお掃除を行いますから、準備が出来たら出てきてくださいね。」
「ええ、分かりました。」
ドア越しで駆けつけたシスターの一人とカティーヌが話していた。
カティーヌは見事なまでの女声を出している。これじゃシスターになりすましていてもバレないはずだ。さすがは国一番の盗賊というわけか。
「うまくやってるようですね。」
「毎回オレがこうして取り繕っているんだよ。リリィは嘘がつけない性分だから、すぐに素性がバレちまう。ここでは生まれつき喋れないことにしてある。」
「でもそんな怪しい身分の二人を教会がよく受け入れてくれましたね。」
「教会ってのはそういう場所だよ。」
「それじゃあ、掃除があるからまたあとで。」
と、二人が部屋から出ようとした時だった。
「邪魔するぞ! 国軍近衛隊である! この教会に怪しい二人組が潜伏していると聞いた! 今からその真偽を調べさせてもらう!」
国軍の警備兵の部隊が街まで降りてきて二人を探し出したのだ。しかも、運悪く場所まで割れていたらしい。
すぐに二人の元にシスターたちがやってきた。怪しい二人組なんて、この二人以外にありえない。詰んだ。二人とも軍に突き出されてしまう。
そう思ったが、予想外のことが起きた。
「二人とも、ここはもう危ないわ。すぐに逃げてしまいなさい! 国軍には私からなんとか言っておくから!」
「……!! ありがとうございます!」
「あら、あなた喋れないんじゃなかったかしら?」
「あ……!」
「いや、薄々気付いていたわ。それでもあなたは悪い人じゃないと思ったから受け入れたの。だから、逃げて。あなたたちは捕まっちゃいけない。」
「ありがとう! 忘れないぜ。」
カティーヌはリリィ王女の手をパッと取ると、走り出した。
俺たち三人はまた置いてけぼりにされても困るので、走る二人を追いかけた。
「どうなっているんだ? なんかよくわからないけど、助かりましたよ。」
「また走るんですか? 私もお姫様になりたいな。」
前を見ると、カティーヌはリリィ王女をだっこして走っている。
一心に走っている。何かあてがあるのだろうか? 分からないまま二人を追いかけ続けた。
「追いつけない! どうなってるんだ! 人一人を担いでいるんだぞ!」
「お姫様がめちゃくちゃ軽いとかじゃないですか?」
「何冗談言ってるんですか!」
一番足が速いミヤビでさえどんどん引き離されて行っている。
ようやくスピードが緩んだのは、山の近くについてからだった。城がある山とはまた別方向の山だ。
「よし、ついてきているな。いやあ、危なかったな。」
「でも、どうして助けてくれたんでしょうか?」
「教会ってのはそういうところだ。この国の教会はどうしようもなく優しい。」
カティーヌは出てきた町の方を振り返った。
俺もつられて振り返ると、相変わらず美しい景色が望める。
「さて、こっちに来い。」
カティーヌは手招きをした。
彼に連れて行かれたのは、質素な山小屋。いや、質素を通り越して、ボロい。
「こんなところに連れてきてどうするっていうの、カティーヌ?」
「こんなところだからこそバレないんだよ。これから国外に出る算段を立てるんだ。」
「ちょっと待って! 私まだ出るなんて言ってない。」
「王妃からの伝言があったんだ。許しはもう下りたんだ。もうお前を縛るものはないんだ。」
王妃は押し黙った。
「じゃあ行くか。」
黙ったまま王女は頷いた。
カティーヌは、小屋の中に置かれている一際ボロい机の上に地図を広げた。ユーフテンの地図である。
「国外に出るには、山を越えるか、関所を通るかの二択しかない。」
カティーヌはそれぞれの経路を指でなぞる。
「だが、山越えはリリィには無理だ。自ずと道は一つしかなくなる。関所を越えて外へ出てしまおう。」
カティーヌの言う関所は、谷に沿って作られていた。全部で三つある。一本道に立て続けに建てられている、この関所を突破していこうと言うのである。
だが、わかりやすい問題が一つある。関所とは、すなわちセキュリティの面で作られていると言う側面ももちろんある。当然怪しいやつが通ることなんてできないのである。
「どうやって関所を抜けるんです?」
「それはだな……うーん。正直なところ対策はないな。」
「なんでそういうところだけ無茶苦茶なんですか!」
「いや、なんとかなるだろ。」
勝手に俺たちを置いて行ったり、無策で突っ込もうとしたり、どうしてこうなんだ? もしかして本当にバグってるのか?
やり取りを見ていたリリィ王女は深いため息をついた。
「聞きますけど、カティーヌ。自信はあるの?」
「もちろんあるさ。オレはいつも最後にはやり遂げるのさ!」
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