七十二話 シスター二人?
シスターの中に……あれは変装しているつもりなのか? いや、無理があるだろう。
ミヤビは遠慮することなく、そのいかにも怪しいシスターに近づいて行った。
「何してるんですか? カティーヌさん。」
「カティーヌ? 誰ですかそれ。わたくしの名前はカタリーナですわ。」
もうちょっと遠い名前を考えとけよ。
「いや、無理がありますって。というか、私たちのことが見えてるんだから、もうバレてますよ。」
そう、カティーヌは仲間判定だから、俺たちが『隠密』を使っていても姿が見えるのだ。
逆を言えば、俺たちのことが見えているということは、カティーヌで確定ということである。
「くそ! もう少し楽しみたかったんだがな。」
これ楽しくてやってたのか?
カティーヌは、周りのシスターたちに何か話すと、
「お前ら、こっちにこい。」
と、俺たちを教会の奥の方にある部屋に連れ込んだ。
奥の部屋は、雰囲気がガラリと変わって、質素な部屋だった。
「お前ら、もう姿を見せていいぞ。」
言われて、『隠密』を解いた。ここにはカティーヌと俺たちしかいないのだから何も変わらないのだが。
ようやく、見つけることができて、話すことはたくさんあるだろうが、まずはこれだ。
「おまえ! なんだよあの紙は! 全然読めなくて苦労したんだぞ!」
「あれ、そうか? お前たち、オレの言っていることはわかるくせに、書いてある文字は読めないのか。」
「それにだよ。解読したらしたで、今度は謎解きになってるし。」
「謎解き? そんなこと書いてたっけ?」
「書いてただろう! あれのせいでたどり着けないところだったんだぞ!」
「うーん、そんなこと書いた覚えないけどなあ。」
とぼけやがって。
「それより……」
と、言ってカティーヌは一旦部屋を出た。
「逃げたんですかね?」
「露骨に話題も変えようとしてますしね。」
三人でグチグチ言っているとすぐにカティーヌは帰ってきた。
扉を開けて入ってきたカティーヌの後ろには、もう一人シスターの姿。それもまた、見たことのある顔だった。
「王女さま!」
リリィ王女もなぜかシスターの姿をしていた。こっちはカティーヌと違ってサマになっている。強いて言えば、王族の高貴なオーラを隠しきれていないことが玉にきずくらい。
リリィ王女は恥ずかしそうにしていた。
「ロータスはもう会ったことがあるが、オレの嫁だ。」
「何言ってるんですか!」
シスター姿のリリィ王女は後ろからカティーヌの頭をはたいた。
ミヤビとトルクの二人は、リリィ王女とは初対面である。
「え、あなた結婚してたんですか?」
ほら、めんどくさい誤解が生まれるじゃん。
「違いますよ、私はリリィ・ユーフテン、この国の王の娘です。」
「ほええ! この人がそうなんですか!」
リリィ王女は、頭のかぶりものをはずして、中から若草色の髪を出した。
「あなたがたにカティーヌがお世話になったと聞きました。ありがとうございます。」
「ああ、いえいえ、ご丁寧にこちらこそ。」
それで、二人はどうしてこんな教会に逃げ込んでいるのだろうか。
「けれど、あなたたちはこんなところにいても大丈夫なんですか? 王女さまにとってはどうかは分かりませんけど、カティーヌは逃げないといけないんでしょ?」
この教会は、山の城からそう遠くにあるわけではない。安全とは言い難いと思うのだが。
「ああ、心配ないぞ。ここは絶対とは言わずとも、安心だぞ。」
どうしてそんなことが言えるのかはわからないが、凄い自信だ。
「それでも、いつまでもここにはいられないわ、カティーヌ。」
「けれどどこへ行くって言うんだ?」
俺たちをほったらかしにしながら、カティーヌとリリィ王女は勝手に話し始めた。
「今からでも遅くないわ。私は城へと戻ります。あなたも捕まらないような遠くの場所へと落ち延びてください。」
「何を言ってるんだ! そんな弱気になることはないだろ。お前は自由を欲しがっていたじゃないか!」
「でも、こんな形じゃダメなのよ。色んな人に迷惑がかかっちゃうわ。父上にも合わせる顔がございませんもの。」
「そう言って、人のことばかり気にして。自分が優先に決まっているだろ。」
だんだんヒートアップしてきた。止めようにも、俺たちが止められるようなものでもない。
リリィ王女は、まだ城へ帰る気でいるらしい。しかし、シスター服まで着て潜伏しているということは、本音は……
あ、そうだった。そういえば伝言を預かっているんだった。
「あの、少しいいですか、二人とも。」
「何用ですか? 失礼ですが今は大事な……。」
「いえいえ、もっと大事な話です。王妃さまからカティーヌに伝言を預かっています。」
リリィ王女は驚いて息をのみ、カティーヌは眉毛をピクリと動かした。
伝言は彼らの助けになるだろうか?
「それで、その伝言ってのは?」
「逃げて、幸せになれってさ。王妃さまは二人の関係を了承しているらしい。」
「それは、本当ですか?」
探されている身であることを忘れて、リリィ王女は少し大きな声をあげた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます