七十一話 鐘の鳴る場所……!
ミヤビが突然閃いたと言い出したが、思わず疑ってしまった。
「本当かよ、早とちりじゃないのか?」
「失礼ですねロータスさん。ともかくまずは聞くものでしょう?」
ミヤビはふくれつつも、その閃きを話し始めた。
「ここに書かれている内容ですね。横にいる姫っていうのは、ロータスさんが会ったっていうリリィ王女に間違いないと思うんですよ。」
「それは多分間違いないな。」
「そこでですよ、意味深なのは『横に姫がいるんだから、オレも王子になれる』という文言です。」
そうだ。そこを曖昧な書き方しかしていないから、意味がわからなくなってしまっている。
そこからが核心だと言わんばかりにミヤビはさらに得意げ。
「そこでですね。私が思うに、横に姫がいるっていうのはすなわち二人が結婚するということなんじゃないかと思うんです。」
「結婚? いきなりですか?」
「だってそうでしょう? そうしたら、カティーヌさんは王女の夫。考えようによっては王子になってしまいます。」
「ああ! なるほどな。」
筋は通るな。だが、依然として場所がどこなのかは分からない。
推理はまだ続いていた。
「あとは、『結婚するからどこに行くのか?』ということです。最後のヒントとして出てきているのは鐘です。」
鐘というと、お寺なんかにあるあれか?
「まあ、ベルというのが正しいですね。その時点で十分なミスリードだとは思うのですが、それは許してあげましょう。」
ベルなんてもっと縁遠いものになっちゃったよ。ますます分からない。
「ベルがあって、結婚するってなったらもう場所は一つしかないでしょう! 教会ですよ、教会!」
教会? ああ、そうか。結婚式って教会でやるもんな。独身のままおっさんになってしまうとついつい忘れてしまう。
教会という単語に、エルフの学者は反応した。
「やや! それなら思い当たる場所がありますよ!」
「本当ですか!」
「ええ、地図を開いていただけませんか?」
と、頼まれたので、俺はメニューからマップを開いてみせた。
「うーんと……あ、ここです! ここにある教会がそうです。超巨大なベルがトレードマークになってるんですよ。おそらくカティーヌ・ドラヌが示した場所はここですよ。」
おお! 本当に答えが出てしまったよ。ミヤビだからってすぐに疑うのはよくないな。
トルクくんは、この手のことは苦手らしく、ちんぷんかんぷんという顔で黙ったまま聞いているだけだった。
「今の……分かった?」
「まあ、なんとなく。教会に行けばいいんですよね?」
「うん、それでいい。」
自分の手柄だからか、ミヤビはさらにやる気に満ちていた。
「さあさあ! 行きましょうよ皆さん! 目指すはこの国の教会です! そこにカティーヌさんと、それから王女さまもいるはずです!」
彼女は余韻もなく学府から出ていこうとする。
「すいません、ありがとうございました。」
「いえいえ、僕としても、なかなか体験できないことだったので楽しかったですよ。」
名も知らないのに手を貸してくれたエルフに礼を言った。
「何かお礼しますよ。」
「いや、不要です。ただ、僕が手を貸したことは誰にも言わないでいただきたい。盗賊を助けた罪で捕まってしまっては、研究が続けられなくなってしまいますから。」
「ええ、そこはご心配なく。」
長居は無用と、俺とトルクくんもアロリアータ学府から出た。
三人揃って向かう先はもちろん紙の指し示す教会である。そこにカティーヌと王女がいるはずだ。早く会って、どうして読めない紙切れ一枚を置いて俺たちを置き去りにしたのかを問い詰めてやりたい。
教会は、さらに俺たちの想像を超えてきた。もはや建物に緑があるのではない。巨木がそのまま教会になってしまっているのだ。
幹の中に入ることができるらしく、巨木の内部が全て教会らしい。
「どうします? 透明のまま入りますか?」
「一旦ね。中に誰がいるか分かったものじゃないし。」
中に入って、カティーヌとリリィ王女を見つけてから『隠密』を解こうという話になった。
そのうち、エルフが一人、礼拝に訪れた。
「よし、彼の後ろについて行こう。」
「分かりました。」
彼が扉を開けたのと同時に、俺たちもその後ろに続いて中に入った。
外から見た大樹の見た目とは裏腹に、中は意外にも一般的な教会になっていた。結婚式が挙げられそうな雰囲気。左右二列に分かれて真ん中の道を挟んだ座席なんかは特に思い描く通りだ。
ただ、気圧されたのは、中央奥に鎮座しているパイプオルガン。とんでもない大きさだ。その音を出来るだけ響かせるためか、天井もかなり高くなっている。
奥の台には、神父と思われる年配のエルフがいる。俺たちと一緒に入ってきた礼拝のエルフは、その神父になにやら話していた。懺悔だろうか。
脇の方にはシスターもいくらかいる。みんな同じような服。想像通りのシスターの服だ。違うのは背丈と顔だけ。
そのシスターたちの中だった。
「あれ? あそこにいる人ってそうじゃないですか?」
「そうですよ! ようやく見つけましたよ!」
見慣れた顔が、シスター服の中から顔を出していた。
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