第112話 復興作業

 迷宮都市は様々な人の喧騒で満ちていた。しかし、それは通りを道行く人の声や、出店の元気な客引きの声、はたまた探索者同士のちょっとしたいざこざと言ったものでは無い。


 そこにいる人々は誰もが忙しそうにとある作業へと勤しんでいる。


「おーい!誰だここに瓦礫の残骸置いた奴!?」


「この木材ってどこに運ぶんだ!?」


「ハシゴ持ってきました〜!」


「おう!そこの家に立て掛けてくれ!!」


 それは道中に転がっている瓦礫の残骸を拾って回収する者、壊れた建物を修繕するための木材を運ぶ者、はたまたその場の監督に頼まれてお使いをする者。

 皆がみんな、この荒れに荒れ果てた迷宮都市を元の姿に戻そうと奮闘している。


 僕もその一人だ。


「この区画の瓦礫はだいたいこれで全部です」


「分かった。じゃあ次はあそこにある木材を各方面に運んでくれ」


「分かりました」


 集めた瓦礫を収容し、それを確認中の人が在中しているテントでそんなやり取りをする。

 僕は言われた通り外に指された場所へと向かって、軽く5本ほどの角材を担いで歩き出す。


 あれから一週間が経った。


 迷宮祭典フェスタを混乱の渦へと陥れた騒動は、結局のところ多大な被害を負いながらも終息へと向かった。


 カルナ・ブレンダとの死闘を経て、その後に意識を失った僕は、5日間ほど深い眠りに着き、今まで最長の睡眠記録をたたき出した。

 僕が優雅に5日間も眠りこけていた間に、迷宮都市では色々なことがあったらしい。


 まずは今回の件で都市中に回った火の手の消化活動だったり、被害者や行方不明者、死亡者の確認作業。そこから今回の騒動の首謀者、加害者の捜査。並行して都市の復興作業。主に探索者協会と憲兵団が指揮を取って事態の鎮静化に当たっているらしい。


 目が覚めた時点で、迷宮都市全体は完全な復興モードになっていた。


 そんな「みんなで頑張って協力しよう!」的なムードが迷宮都市を包み込んでいる最中、最長記録の睡眠をたたき出した僕が寝起き一発目に感じたことは寝すぎて体がガチガチに固まっていることへの不快感だった。


 そんな不快感の中、目が覚めて直ぐに僕を待ち受けていたのは簡易的な身体検査と、都市復興の強制労働だった。


「まあ別に文句は無いけど、まだ本調子じゃない人間を馬車馬の如く働かせるのは倫理的にどうなの?」


 今回の騒動の被害は前述したとおり甚大で、今も多くの一般人や探索者が行方知れずだったり、床に伏している状態。それにより現場は慢性的な人手不足。精神状態など重要視せず、五体満足に動けるのならとりあえず働けと言う雰囲気だった。


 5日も死んだように寝込み、いきなり目覚めた僕は多少の体の違和感はあれど、「動けるなら働け」と言うことで即日現場へ駆り出された。


 たまたま作業の休み時間に僕の様子を見に来てくれていたルミネは、僕が目を覚ました瞬間に立ち会っており、それはもう泣いて僕の復活を喜んでくれた。

 そんな彼女も今は治療院で患者の治療や健康管理など、外の現場よりも忙しそうにしている。


 グレンも事態が終息し、復興作業が始まるタイミングで目を覚まして、それからはずっと肉体労働に明け暮れていた。

 目を覚ましてから一度だけお互いの無事を確認するように顔を合わせたが、それからは割り振られた現場が違うため顔を合わせることは無かった。


 復興作業が始まって一週間。

 都市に住む人間全員がこれに当たっている訳だが、何も永遠と強制労働に駆られる訳では無い。少ないながらも給金は出るし、復興の目処は経ちつつある。あと一週間もすればいつも通りの日常に戻れるという話だ。


 それまでは大迷宮に潜ることもせず、せっせと肉体労働を続けないと行けない訳だが、それに対して文句を言う探索者は誰一人としていなかった。誰もがいち早く迷宮都市の復活を望んでいたからだ。


 もちろん、僕もその一人である。


「角材持ってきました〜、どこに置きますか〜?」


「おーう、そこにまとめて置いてある場所に頼む!」


「はーい」


 指定されていた場所へと角材を運び込み、それを現場の親方に言われた場所へ置く。


「ふう……」


 額に浮かんだ汗を首にかけたタオルで拭いながら一息つく。


 異様に青い空を見上げて小休憩をしていると、同じように小休憩をしていた探索者達の会話が聞こえてきた。


「ようやくこの辺も綺麗になったな」


「ああ、道の舗装ももう終わりそうだって話だ」


「そりゃあ良かった……それにしても本当にろくでもないことをしてくれたよなぁ」


「今回の首謀者……犯人?ってまだ捕まってないんだろ?」


「捕まってないどころか、全然手掛かりがないらしい。一応、それに加担した奴らは何人か捕まったって話だけどな」


「ああ、〈常闇の翔〉の二人だろ?確か斥候スカウトと魔法士だったか。アイツらも何であんなことしたんだかなぁ」


「なんでもパーティー全員が変な薬やってたって話だぜ?その副作用で意識が洗脳状態になって暴れ回ったとか……」


「怖ぇ〜、他のメンバーはまだ見つかってないんだろ?本当に今回のこの騒ぎはなんだったんだろうな」


「謎が深まるばかりだよな」


「おい、お前ら!そんなとこで油売ってないで直ぐに新しい木材を運んできてくれ!!」


「「「へーい」」」


 現場の親方にどやされてそそくさと作業に戻る探索者達。それに倣って僕も来た道を戻る。その道すがら考えることは先程の探索者達の会話だ。


「犯人は見つかっていない……か」


 先程の探索者達の話通り、一週間経っても今回の首謀者兼犯人は見つかっていなかった。有力な情報としては、祭典のフィナーレ、上空で不吉な文字の花火を打ち上げて空に立っていたローブの人間が首謀者では……と言うか確実にクロだろという話だ。


 しかし、如何せんそのローブの人間の詳細な顔を見た人間はいなく、完璧に姿を晦まして尻尾が掴めていない状況だった。

 唯一の頼みの綱である加害者〈常闇の翔〉のメンバーも記憶が曖昧で真相に迫るほどの情報は全くないとのこと。


 しかもその〈常闇の翔〉も半数以上が行方知れずなのだ。仮に死んでいたとしても死体すら見つかっていない。何処かに雲隠れしたには計画的すぎる。捕まった二人の話からはそんな計画性は感じられない。という様々な情報の錯綜によって、謎が謎を呼んでいた。


「死んだ……か」


 目を覚ましてから又聞きした情報を思い返しながら、次いで浮かぶのはカルナ・ブレンダとレビィルダフ・ステイナーの事だ。


 今思い返してもあの二人は常軌を逸していた。その行動理念も成れの果ても。直接対峙したから言えることだが、恐らく〈常闇の翔〉が全員生きていて、捉えられたとしても事件の解決には一歩も近づかないだろう。


 色々とあの時に交わした会話のやり取りなどを思い返してみるが、その殆どが支離滅裂な内容で大した情報なんてなかった。

 結局のところ話にあった薬に溺れて、気狂いを起こしていたようにしか思えない。


 しかしそれにしたって、その件の薬がもたらしたあの力は無視できない。

 カルナ・ブレンダ、レビィルダフ・ステイナー、二人ともあの小太りの男のようにステータスがおかしなことになっていた。


 カルナ・ブレンダに至ってはその姿を大迷宮の中にいるモンスターのように変えて、見覚えのあるスキルの変化や称号なんかも見受けられた。


「選定者……結局これはなんなんだ?」


 小太りの男の時にもあったその称号。至る所に今回と前回の男の件で共通することがあった。


 結局のところ、情報が局所的すぎて核心に迫ることは出来ないけれど、何かずっと嫌な予感が纏わり付いて離れない。


「───それに、あの天啓はなんだったんだろう……」


 不可思議なことはまだある。

 それはカルナ・ブレンダとの戦いの中で起きたスキル【取捨選択】の発動だ。

 あの時の記憶は朧気だが、確かに覚えている。


 スキル【強者打倒】の反動で動けなくなった僕の身体に起きた謎の〈覚醒〉という現象。初めてスキル【取捨選択】でステータスを拾った時と同じような衝撃の激痛。その後は異様に体の調子が良くなって、不思議とカルナ・ブレンダと同じ領域に立てたような気がした。


 実際に自分のステータスを見た訳では無いけれど、確かにあの時、僕のステータスに何かしらの変化が起きていたはずだ。

 その変化がどんなものかまでは分からないが……。


「結局あの後すぐに倒れちゃったし、起きた時は最悪に体の調子は悪かった。ステータスを確認してみても文字化けしてる訳でもなし……強いて言えば称号の欄に変な空白ができてるぐらいで、これが一番怪しいけど、何かわからないしなぁ……」


 改めて自分のステータスを確認してぼやく。カルナ・ブレンダとの戦闘の影響かは分からないが、目を覚まして確認したステータスは色々な変化が起きていた。


 パッと見の変化はなかったが何故かスキルの代償にしたはずの能力値が全て均一に2000になっていたり、スキルの統合が行われたりしていた訳だが、何よりも目を引いたのは称号にできた謎の空欄だった。


 その詳細をさらに鑑定してみようにも、反応は全くなく。どれだけ検証してみても、意味不明の空欄ができただけ。

 本当に意味がわからない。


「あー……何だかうだうだ考えすぎて訳が分からなくなってきた」


 煮詰まりすぎた思考を振り払うかのように頭を振って、一端の思索を止める。


 気がつけばまた角材の山が置いてある広場へとたどり着いていた。

 この晴れないモヤモヤとした気持ちは肉体労働で誤魔化すしかないと、自分に言い聞かせて先程の倍の角材を担ぐ。


 まだ陽は高い。

 このペースで行けば、一日でこの角材の山を各所の現場へと運ぶのは余裕だ。

 とりあえず目先の目標を設定して、僕は小走りで〈セントラルストリート〉を行く。


 結局の所、何も解決はしていないが、迷宮都市は着々と復興へと近づいている。今はそれだけに集中していればいいと自分に更に言い聞かせた。



 その日からさらに一週間後、迷宮都市を激震させる知らせが入る。


 それは階層更新へと挑んでいた〈聖なる覇者〉の階層更新の失敗。そして〈白銀の戦姫〉アリシア・リーゼが大迷宮の中に一人、取り残されたというものであった。




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 テイク・ヴァール

 レベル5 


 体力:2000/2000

 魔力:2000/2000


 筋力:2000

 耐久:2000

 俊敏:2000

 器用:2000


 ・魔法適正

 不屈の焔


 ・スキル

【取捨選択】【強者打倒】【精神耐性】

【鑑定 Lv3】【咆哮 Lv3】【索敵 Lv3】

【幻魔 Lv1】【大地の進撃 Lv1】【魔力強化 Lv1】

【幻魔 Lv1】【堅城鋼壁】

【短剣術 Lv2】+【暴虐 Lv1】+【剣帝 Lv1】=【剣魔大帝】←NEW


 ・称号

 簒奪者 挑戦者 選択者 〈   〉

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