第96話 ルミネの提案
正式なパーティーとして初めての探索は恙無く終わり、僕達は地上へと戻ってきていた。
時刻は気がつけば18時を回ろうかと言うところ。久方ぶりの探索を終えた後の弛緩した空気を感じながら、僕たち三人は探索者協会へと足を運んでいた。
「いつもより多く素材が集まりましたね!」
「だね。これなら採算も取れるし、安定して探索を続けることができる。それもこれもグレンのお陰だね」
「そんなことないって。元々、テイクとルミネは探索者として十分な実力があったし、俺が増えたところでそんなに変わりないだろ」
「凄く変わってるよ。グレンのお陰で危なげなく探索を終えられたし、これならもっと奥の階層の攻略もできる」
換金所の受付で今日の探索で手に入れたモンスターの素材の査定結果を待っている間、そんなことを話す。
グレンは謙遜をして、「大したことはしていない」と言った風だが、全然そんなことは無い。
ルミネの言葉通り、いつもの倍以上のモンスターとの戦闘を繰り広げて、今回の探索はいつも以上に実入りが良かった。
───これなら査定も期待できそうだ。
素材が予想以上に多かったのか、査定に時間がかかっている。
数分ほどその場で待っていると、申し訳なさそうな表情を浮かべながら女性職員が戻ってきた。
「〈寄る辺の灯火〉の皆さん、お待たせしてすみません!」
聞き慣れないパーティー名を呼びながら、その女性職員は僕達に頭を下げた。
〈寄る辺の灯火〉
それが僕達三人のパーティー名。
僕とルミネには名付けのセンスはからっきしだったので、命名はグレンがしてくれた。
意味としては「何かに迷った人を導けるような灯りでありたい」と言ったものらしい。
最初にルミネが考えていた〈テイクくん大好きクラブ〉よりも何十倍もしっかりとした名付けに即決だった。何より、その名前に込められた意味も僕は気に入っていた。
……隣の少女はどうにもまだ自分が最初に出した案が良かったと思っているようだけれど───あまりこの話を掘り返すと面倒になりそなので止めておこう。
「いえ、全然大丈夫ですよ」
大量の脂汗をかき、焦った様子の職員を落ち着かせて、僕はカウンターの上に置かれた袋を持ち上げる。
「おっ……」
予想よりもその袋には重量があり、ズッシリとした重みに思わず声が出た。
そんな僕の反応を見て職員さんは眩しい笑顔を浮かべた。
「本日は探索お疲れ様でした!またのご利用をお待ちしております!!」
「あ、はい。どうもありがとうございました」
軽く頭を下げて僕達は換金所の受付から離れる。そのまま今日の稼ぎの山分けをするために、ロビーの端にいくつも置かれている丸テーブルの一つを占拠した。
テーブルに着いてズッシリと重い袋を置く。その袋の中身は言わずもがなお金だ。
落とさないように袋の中身をテーブルの上へ並べると、ルミネがはしゃいだ声を上げた。
「わぁ……すごい!今日だけでこれだけ稼げたなんて……最高記録じゃないですか!?」
「そうだね。まさかこんなになるとは思わなかったなぁ〜」
ルミネの言葉に頷いて、テーブルの上に無造作に転がった大小様々な硬貨を数えていく。
締めて、約60万ベルド。20階層前後で稼ぐには些か異常な額だ。予想以上の稼ぎに僕とルミネの頬は緩む。
「希少ドロップもあったからこれぐらいが妥当な金額だと思うぞ?」
はしゃぐ僕たちを見ながら、グレンは頬を綻ばせる。
少し、今回の成果を考えれば思い至ることではあるが、それでも嬉しいものは嬉しかった。
「それじゃあ前に説明した通り、均等に分配するよ?」
「はい!」
「わかった」
はしゃぐのも程々に、いつまでもテーブルにお金を広げているわけにもいかないので手際よく分配をしていく。一人あたり約20万ベルドの収入だ。
この前の臨時収入で懐は暖かかったが、それでもやはり自分で稼いだお金で懐が潤うのは嬉しい。なんと言うか、心に余裕ができる。
しかし、いつまでも手元のお金を見て頬を緩ませるのもだらしない。
僕はお金を亜空間に保存して、大きく咳払いをする。そして二人の顔を見て口を開いた。
「みんなお疲れ様。今日は初日で様子見の探索だったけど、明日から少しずつ潜る階層を深くしていって、パーティーとしての練度を上げていこう。今日の探索で感じたけど、僕達は強いし、これからもっと強くなれる。みんなで力を合わせて最前線目指してこれから頑張ろう!!」
「はい!」
「ああ!」
〈寄る辺の灯火〉としての初めての探索。新しい仲間の加入に気持ちを新たにして、僕達は意志を示し合わせる。
それをするだけで更にお互いに信頼が深まったような気がして、仲間になれたような気がした。
「それじゃあ今日は解散に───」
探協での用事も全て終わった。ならば後は今日の疲れをゆっくりと癒すだけだ。
僕は改めてみんなに「お疲れ様」と労いの言葉を紡ごうとするが、それは途中で遮られてしまう。
「あの!二人はこの後とかって時間ありますか!?」
「え?ああ、うん、大丈夫だよ」
「俺もだ」
溌剌とこの後の予定を聞いてきたルミネに僕とグレンは首を傾げつつ「何も無い」と答える。
そんな僕たちの返答を聞いて、エルフの少女は満面の笑みを浮かべてこんな提案をした。
「それならグレンくんの歓迎会をしませんか!?」
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