第58話 荒野の夢
灰色の砂嵐が視界を埋め尽くす。
無限に続く荒野には強風が吹いて、その場に立っているのもやっとだろう。
辺りを見渡すが自分以外にそこには誰もいない。
そこはどこまでも殺風景で寂しげな場所だった。
直ぐにこれが夢だと分かる。
それと同時に「またか……」と見覚えのある風景を見て思った。
どこまでも続くその風景を眺めていると、不安感が掻き立てられてじっとしていられなくなる。
「…………」
宛もなく荒野を彷徨う。
それでも不安は拭えず、気分は晴れない。
心の内に違和感がくすぶり続ける。何か、大きな間違い、はたまた納得できないことがずっと居座り続けるこの感覚は僕を不快な気分にさせていった。
次第に不安よりも不快が支配域を広げていって、むしゃくしゃと地面を蹴りつけるように歩く。
どれほどそうして歩いていただろうか。
気がつくと僕の目の前には一人の少年がいた。
少年は荒野に一人、ポツンとその場にしゃがみこんで何かをしている。
覗き込んでみれば、少年の目の前には地面に転がる無数の石があった。
前見た時は積み上げられて石の塔のようになっていたモノが何かの弾みで崩れてしまったのだろうか。
少年は悲しげに崩れ落ちた石を少し見つめて、また徐に石をコツコツと積み上げ始めた。
「っ………」
不意に崩れ落ちた石と悲しげな少年を見て、胸の中がキツく締め付けられたような感覚が襲う。それは不安……または焦燥に似た感覚。
そして石を積み上げるのを途中でやめて振り向いた少年に僕は驚く。
この前の夢のときはよく分からなかったけど、今回の夢はハッキリと少年の顔を視認することが出来た。
「───え?」
「……」
それは幼い頃を自分をそのまま見ているような───違う、目の前の少年は確かに昔の僕だった。
呆けた声の次に言葉は出てこない。
息を飲んで僕は目の前の少年に見つめられることしか出来ない。
少年の悲しげな瞳が僕の焦燥を更に掻き立てる。
少年から目を背けたいのに上手く目線をずらすことが出来ない。
まるで金縛りにあったかのように気がつけば体も固まって動かない。
意志とは関係無く少年を見ていると、彼は徐に口を開いた。
「中途半端だね───」
「っ……!!」
それは懐かしい幼い声。しかし、懐かしさとは裏腹に言葉には刺がある。
咄嗟に何か言おうと思っても僕の喉は上手く震えない。
「───よく覚えておいてね。それが今、君の一番の弱さだ───」
深く言い聞かせるような声に僕は息を呑むことしかできない。
「───文句があるように聞こえるかもしれないけど、そういう訳じゃないよ?
結局のところ、僕は君の選択に従うだけだ。文句なんて何も無い。
それでも一度決めたのならそれに責任をもってちゃんと突き通さなきゃ。
「迷うな」……なんて言ってるんじゃないよ?でもね────」
少年は目を伏せると手に持っていた石を地面に落として言った。
「───意志の揺らぎが君を強くもするし、弱くもする。それを忘れないで」
「……」
依然として僕の声は出なくて、大きく頷くことしか出来ない。
それでも少年は頷いた僕を見ると嬉しそうに笑って再びその場にしゃがみ込む。
何をしているのか?
なんてのは聞かなくても分かる。
コツっ。と硬い石と石が重なり合う音が荒野に響く。
視界が暗転する。
不思議な夢は終わりを告げる。
今回の夢も目が覚めれば忘れてしまうのだろうか?
なんとなく考えてしまうが、直ぐに頭を振る。
多分、僕はこの夢を二度と忘れることは無いだろう。
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