第49話 発見

 アイアンの取り巻きであるデルに〈ロック・クラブ〉を擦り付けトレインをされて、僕は奴らの明確な悪意と、ヴィオラさんの身の危険を感じて1日の休息日を取った。


 そして一日の間隔を空けて大迷宮の探索を再開していた。


 大迷宮第26階層〈鉱脈地帯〉のとある採掘ポイント。僕達はいつものようにレアモンスターを探しつつ、ツルハシで岩壁を掘り続けていた。


 たった一日、探索を休んだくらいで奴らからの度をすぎた妨害行為が無くなるとは思えなかったが、とりあえずヴィオラさんの精神面を心配して休息日を取った。結果、この判断は正しかったと思う。


 2日前、地上に戻り別れ際、ヴィオラさんは自己嫌悪と押し寄せる責任感で今にも吐きそうな酷い表情をしていたが、今は心の整理も着いたのか顔色はとても良く元気そうだった。


 隣でツルハシを壁に打ち付ける動作になんの迷いも感じられないし、ゴロゴロと転がり落ちる鉱石たちを見て「ふへへ」とだらしない笑みを浮かべている。


 うん。この前のような陰りは感じないし、平常運転そうでとりあえずは一安心だ。

 ヴィオラさんの様子を横目で盗み見て、ホッと胸をなで下ろした僕は作業に集中する。


 キン、カン、と耳の奥に響く甲高い音に顔を顰めつつも僕は無意識に辺り一帯に注意を向けて警戒をする。

 あんな一件があった後だ、無警戒でいられるわけがなかった。


 今朝から変な気配や悪意がないかと、スキル【索敵】を使用して逐一確認していたが今のところは異常なし。

 さすがにあんな犯罪紛いのことをしておいて奴らも直接的な妨害行為には今のところ出てきてない。


 油断は出来ないが、【索敵】に反応があれば直ぐに対応はできる。

 あまり心配をしすぎても気疲れをしてしまうだけなので、適度な緊張感を保ちつつ黙々と作業を続ける。


 かれこれ作業を始めてから30分ほど経過した。

 僕達の間に特に会話はなく。あるのはツルハシが岩を砕く音とルミネの「ほっ、ほっ!」と軽快に鉱石を拾っていく声のみ。


 ヴィオラさんの話では〈鋼魔鉄〉の採掘は今日で終わり。1時間も掘れば必要数に足りるとのこと。〈鋼魔鉄〉の採取が終われば、後は〈クリスタルパレス〉から取れるレア素材〈白水晶の渦巻〉を手に入れるだけだ。


 その〈白水晶の渦巻〉の入手が困難なのだが、この素材は最悪手に入らなくても構わないらしい。この素材は1つのヴィオラさんのワガママの様なもので何日間も粘って見つける必要は無いとのこと。


 予定していた素材集めの期間は1週間ほどなので、残りの日数で集まらなければ手に入れた素材だけでヴィオラさんは僕の装備作製に取りかかる手筈となっている。


 せっかくならレア素材を使って装備を作って欲しいが、こればかりは運なので手に入らなかった時は潔く諦めるしかない。


 何度もツルハシを振りかぶって、地面に振り下ろす、という動作を繰り返していれば全身がじっとりと汗をかいてきて不意に額を伝う汗が気になってそれを拭う。


「ふう……」


 一息ついて、ほんの少しの小休憩を取る。


 肩をグルグルと回して体の調子を確かめる。昨日は【取捨選択】の反動で全身が軋むように痛かったが、今日はその痛みがなくなりつつあった。


 ステータスの上昇に伴って、本当に少しずつであるけれど高ステータスを拾っても反動の抜けが早くなってきている気がする。

 そんな嬉しい発見をしつつ、昨日のことを思い出す。


 昨日は反動でまともに動ける状態ではなかったけど、探協に行ってきた。わざわざ調子が悪いのに何をしに行ったのか? それはレベルアップの報告だ。


【取捨選択】をした翌日の休息日、何となくステータスを確認をしてみればレベルが4に上がっていた。3ではなく4にだ。ステータス的にはレベルアップも近いと思っていたけれどこれは予想外だった。最初に見た時は驚きすぎて変な声がでた。


 まさかレベルが一気に2つも上がるとは思わず、それはまたもレベルアップの確認を担当してくれたシリルさんも同意見だったようで「ありえない!」と驚いていた。


 一気にレベルが上がることは、ありえないことでは無いがほぼ起こりえないことで都市伝説級の出来事。それを目の当たりにしたシリルさんにめちゃくちゃ質問攻めにあったのは軽くトラウマとなっている。


 これだけでも凄いのに、このレベルアップの他にも僕を驚かせてくれる事があった。

 それは新しいスキルの獲得だ。


 これは【取捨選択】で〈ロック・クラブ〉のスキル【硬質化】を拾った時に分かったことなのだが、どうやら【取捨選択】によって拾ったスキルの中に同系統のスキルがあった場合、それらの同系統のスキルは1つのスキルとして統一されるらしい。【取捨選択】には手に入れたスキルを最適化する力があったのだ。


 今回手に入れた【硬質化】というスキルは系統で行けば身体強化・防御系で、僕が以前に手に入れていた【鋼の肉体】も同系統のスキルとなる。

 これによって【取捨選択】はスキルの最適化を図り、この2つのスキル統合して1つの新たなスキルを生み出した。


 そのスキルというのがスキル【堅城鉄壁】。


 スキルの効果は以下の通り、


 ─────────

 スキル【堅城鉄壁】

 ・効果

 常時発動パッシブスキル

 堅牢なる牙城は何者にも崩されることなく、最強の鉄壁を誇る。

 耐久値に超補正がかかる。

 ─────────


 曖昧な部分があるけど、とにかく防御面が強化されたと言うことだ。


 今日はまだ戦闘が一度もないからこのスキルのおかげでどれだけ耐久値に補正がかかっているかなどの検証はできていないけど、2つのスキルが統合されたのだから高性能なスキルなのには違いないと思う。


 レベルアップにスキル【取捨選択】の新しい効果の発見にと、昨日は色々と考えることが増えた一日であった。けれど、単純に考えれば僕はまた一段と強くなれたということだ。


 能力値だけを見てもたったの1週間やそこいらで多分ジルベールのステータスよりも上を行っているはずだ。やはりスキル【取捨選択】の能力は破格すぎる。


 そんなことを考えているとせっせと採掘をしていたヴィオラさんが持っていたツルハシの動きを止めた。


「よし、一旦休憩にしよう」


「分かりました!」


「……はい」


 考え事をしながら作業をしていた所為か、気がつけば採掘作業を開始してから2時間が経過していた。


 全く体を動かした気分ではなかったけど、僕の体はじっとりと汗をかいていた。頭だけではなくしっかりと体の方も動いてくれていたらしい。


 僕達はヴィオラさんの掛け声で作業を中断して休憩へと入る。

 いつもの如く一箇所に集まって腰を据えようとしたところで僕は視線の少し先にキラリと光る何かを見た。


「……ん?」


「何かありましたかテイクくん?」


 僕の隣に座ろうとしていたルミネがいち早く僕の声に反応する。僕は下げようとしていた腰を持ち上げ直して、しっかりと光った方を見つめる。


「いや、今なにか奥の方で光ったような……」


「なに!光った!?」


「うぇ!?は、はい……」


 視線を逸らさないままルミネに返答すると、それを今度はヴィオラさんが食い気味で反応した。

 そしてヴィオラさんは僕と目線を合わせて、同じ場所を見つめると耳元で叫んだ。


「っ!!あれはクリスタルパレス!よく見つけたぞテイク!!」


「へ……あの奥の方でチカチカと光ってるのが?」


「そうだ!あの特徴的な光り方……見間違うもんか!ふへへ……運がいいぞ、まさか本当に採取期間中にアイツが拝めるとは……」


 そして残念な笑い声を出すとヴィオラさんは徐にバトルメイスを持って光の方へと静かに歩き始める。どうやら休息はお預けらしい。

 気取られぬように慎重に光の方へと進めば、その光の正体が露になる。


 姿形は〈ロック・クラブ〉に酷似している。けれども似ているのは姿だけで、そのモンスターは〈ロック・クラブ〉とは比べ物にならないほど美しかった。


 全身が透き通るようなクリアボディ、反射具合でキラキラと光るその体は宝石のようで、目を奪われる。

 そのモンスターの名前は〈クリスタルパレス〉。僕たちが探し求めていたモンスターだ。


 呑気に大迷宮を散歩していた〈クリスタルパレス〉は一つの忍び寄る影に気づくことは無い。


「ふへへ……お前のその立派な家、いただくよ……」


 盗賊シーフかと見間違える程の足取りで難なく〈クリスタルパレス〉の背後を取ったヴィオラさんは無慈悲に振りかぶったバトルメイスを〈クリスタルパレス〉の脳天に打ち付けた。


「キシュッ!?」


〈クリスタルパレス〉は渦巻きの貝殻出ている頭をぺちゃんこにして絶命する。

 潰れた瞬間に聞こえてきた空気の抜ける音が妙に辺りに響いて、僕とルミネは思わず顔を顰めてしまう。


「やった!レア素材をゲット!!」


 しかし、見事な暗殺を披露したヴィオラさんは無邪気に喜んで、天に高々と顔が潰れた〈クリスタルパレス〉の死体を掲げた。


「「…………」」


 その光景がまた異様で僕とルミネは完全に言葉を失った。

 こうして僕達は運良くレア素材である〈白水晶の渦巻〉を手に入れた。

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