第37話 ふて寝

 目の前に表示されたステータスを見て、僕は驚愕する。


「ど、どういうこと!?」


 鑑定によって表示された僕のステータスは以下の通りだ。


 ───────────

 テイク・ヴァール

 レベル2(解放1/5)


 体力:670/670

 魔力:95/95


 筋力:528

 耐久:389

 俊敏:787 

 器用:205


 ・魔法適正

 不屈の焔


 ・スキル

【取捨選択】【強者打倒】

【鑑定 Lv2】【咆哮 Lv2】【索敵 Lv2】

【鋼の肉体 Lv2】


 ・称号

 簒奪者 挑戦者 選択者

 ───────────


 何度見直してみても全ステータスの数値が減っている。


 他にもスキルの〈Lv〉が上がっていたり、新しい称号を手に入れていたりするけれど、そんな事がどうでも良くなるぐらい、僕は驚いていた。


「なんでステータスが……?」


 腕を組んで変わることないステータスを見て唸る。


 ステータスの数値が上昇するのは見慣れているし、世間一般的にもステータスとは数値が上昇するものだ。しかし、そのステータスが減少しているなんて聞いたことがない。


 能力値の解放……限界突破の代償だろうか?

 僕が知らないだけで限界突破をする時は必ずステータスの何割かが減少するとか…………いや、そんな話聞いたことがない。

 一体僕の体に何が起きたと言うのだろう。


 一旦深呼吸をしてもう一度、上からゆっくりと自分のステータスを確認来ていく。


「レベルは問題ない……」


 間違いなく数字は変わらず2のままだ。

 レベルの隣を見てみれば「解放1/5」と表示されている。これは僕が後5回は限界突破ができるということなのだろうか?


「次は体力、魔力…………やっぱり何度見ても減ってる………」


 魔力と器用以外のステータスの数値が全て200ずつ減っている。魔力と器用だけ50と150しか減っていないのは何故なのか?


「次にスキル…………すごい、殆どのスキルが1ずつレベルアップしてる」


【咆哮】以外のスキル、【鑑定】【索敵】【鋼の肉体】が全てLv2になっている。恐らくジルベールとの戦闘でレベルが上がったのだろう。これは素直に嬉しい。


「……ん?このスキルは─────」


 レベルが上がったスキルを確認していると見慣れないスキルを発見する。

 それはジルベールとの戦闘の終盤で突然発現したスキル【強者打倒】だ。


 あの時はこのスキルを使った瞬間に全く動かなかった体に活力が湧いて、そのままジルベールを倒すことができた。

 入院生活ですっかりとこのスキルの事を忘れていた。いったいどんな効果をしたスキルなのだろうか?


「────鑑定」


 スキル【強者打倒】に意識を集中させて鑑定する。すると視界に【強者打倒】の詳しい効果内容が表示される。

 それを見て僕はこの謎のステータス減少に合点がいく。


「そういうことか…………」


 ────────────

強者打倒ジャイアントキリング


 派生スキル(取捨選択)


 ・効果

 ステータスを捨てることで一時的に捨てた分だけの3倍の能力値を上乗せする。

 使用後は身体に多大なる負担がかかる。


 ・発動条件

 絶対的な強者を打倒すると強く決意すること。全ステータスを任意の数値だけ捨てること。

 ────────────


 どうして全ステータスが減少しているのか? どうしてレベル2の僕がレベル5のジルベールを倒せたのか? なぜ3日間も深い眠りについていたのか?


 その謎がこのスキル一つで説明がつく。

 全ては新しく手に入れたスキル【強者打倒】の能力だったのだ。


 ステータスが減少しているのはジルベールとの戦闘で僕が無意識にこのスキルの発動のためにステータスを捨てたから。そして飛躍的に上昇したステータスでジルベールの虚を着いて、奴を倒すことが出来た。その後、スキルの反動で3日も寝込んだと………。


「これはまたとんでもないスキルだ……」


 改めてスキルの効果を読み返すが凄すぎる。


 捨てたステータスを3倍にして自分のステータスに一時的に上乗せするなんて強すぎないか? その分、発動条件が少し曖昧で代償もステータスを捨てなければいけないと大きいが、それでも破格だ。

 これは使い所をよく考えないといけないスキルだな。


 呆然と納得していると、表示された内容に気になるところを見つける。


「派生スキルってなんだろう?」


 それはスキルの名前の下に書かれてある『派生スキル(取捨選択)』と言う文字。

 今日何度目かの初めて聞く単語に僕は首を傾げる。


「鑑定してもダメか……」


 試しに鑑定してみても説明が出てこない。レベルが上がった鑑定でもその内容を見ることができない。


 次々と浮上していく謎の数々に嫌気が差してきて、僕は勢いよくベッドに寝っ転がる。


「あーもう!訳がわかんない!今日はもう頭使うの終わり!!」


 そして色々と考察と検証をしなければいけないのに、そのままふて寝することにする。


 とりあえず今は「どうしてステータスが減少しているのか?」という謎は解き明かせた。それで満足しておこう。


 まだ真昼間だが尋常じゃないぐらい疲れた。やらなければいけないことは盛りだくさんだが、ルミネにはしばらくの間、探索は休みにすると言ったのだ。今日はもうこのままゴロゴロと自堕落に過ごそう。


「気が済むまで休んだらまずは武器を買いに行かなきゃな……報奨金のおかげで予算は沢山あるし……次の武器は夢のオーダーメイドなんかもいいなぁ…………」


 微睡む意識の中、そんな楽しいことを考えて僕は直ぐに眠りについた。


 ・

 ・

 ・


 そこは人が生きていくには悪辣で最悪の環境だった。迷宮都市の掃き溜め、人々はそこを〈無法地帯〉と呼ぶ。


 常に腐った臭気が辺りを満たして、生気を失ったかのように飢餓者達がそこら中にのたうち回っている。


 まともな建築物など一つもなくて、ボロ小屋ばかりが立ち並ぶ。そんなボロ屋が立ち並ぶ一角に、周りに比べ少し立派な小屋がある。そこに黒い外套に身を包み、顔をフードで深く隠した5人の影が集まっていた。


 中は陽も入らず薄暗く、頼りになるのは丸テーブルに置かれた一つのカンテラの光のみ。その光に照らされた一人の大柄な男が煽るように口を開いた。


「お前が目をつけたあの男はダメだったようだな?」


「え?ああ、うん。そうだね」


 その中にはジルベールに〈無法地帯〉で接触して、謎の杖を渡した小柄な男もいた。


「しかも貴重なまで失った。どう落とし前をつけるつもりだ?」


「あのまま壊されずに探協あいつらの手に渡る方が厄介だろ?なら壊された方が好都合さ。それに今回は試験的な意味合いが強い。失敗することを前提にしていたじゃないか」


「だが……!!」


「そんな怒るなよ。杖は問題なく起動した。それが確認できたからいいじゃないか」


 なおも食い下がろうとする大柄な男に、小柄な男はケラケラと笑って受け流す。


 今回のジルベールの一件を男たちはとある方法で傍観していた。

 結局のところ男たちの思惑通り事は運ばなかったが、それなりの成果は得られた。


 2人の男のやり取りを聞いていた一人の女が口を挟む。


「あの男は殺しとかなくていいの?〈無限牢獄ラビリンス〉なら私が行ってくるけど?」


「いいや、その必要は無いよ────」


 女の言葉を小柄な男は否定する。


「────彼にはまだ使い道がある。まだ殺さないで、タイミングを見計らって回収しよう」


「……分かった」


 歪に頬を引き攣らせて小柄な男は立ち上がる。


「それじゃあ各々、持ち場に戻って今日も頑張ろう。〈邪神龍〉の復活は近い」


 それを合図に会話は終了した。






 ───────────

 ジルベール・ガベジット

 レベル5


 体力:1210/1210

 魔力:557/557


 筋力:1568

 耐久:961

 俊敏:1280

 器用:102


 ・魔法適正

 火


 ・スキル

 【剣聖 Lv2】


 ・称号

 殺人者マーダー

 ───────────



最後まで読んでいただきありがとうございます。


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