第26話 情報収集
スキルの救済処置である〈試練〉が現れてから4日が経った。依然としてこの〈試練〉とやらが何なのかは分かっていないし、クリアの目処も立っていなかった。
その反面、探索自体はとても順調で、この4日間で僕達は
ココ最近はずっと探索続きで、互いに疲れも目に見えて溜まってきていた。試練をクリアするために時間は無駄に出来ないが、我武者羅に探索をしても良い結果が出る訳では無い。それに決して休息は無駄な時間なんかではない。
というわけで僕は今、久しぶりに1人で探索者協会へと訪れていた。
「今日もいっぱいるなぁ〜」
いつもと代わり映えのしない白大理石で造られた建物内。
そこにはこれまたいつも通り、たくさんの探索者で賑わっていた。
その人混みをすり抜けて僕は真っ直ぐに総合受付の方へと向かう。
何故、せっかくの休息日なのに探協に来ているのか? その理由は情報収集をするためだった。
探協とは大迷宮を管理する機関だ。そこには毎日数え切れないほどの大迷宮に関する情報が流れ込んでくる。
モンスターの出現情報から、各階層の情報、小さな異変も見逃すことなく探協は様々な情報を管理している。
その情報を求めて僕はここにやって来たのだ。
もちろん欲しい情報はモンスターの出現情報。
現在、大迷宮のどの階層でどんなモンスターが出現しているのかを確認しに来た。
目的地は総合受付の右隣にある大きな掲示板。そこには毎日、リアルタイムでクエストの依頼やモンスターの出現情報、階層の細かい変化などを更新してくれている。
「ふむ……」
見上げるほど大きな掲示板の前に立って、ずらりと張り出された情報たちを見ていく。
『24階層でスロールマウスが大量発生!!』
『37階層、
『45階層でまた天使を目撃?情報求む!!』
『53階層、
『モンスターの大移動。各階層のパワーバランスが崩壊!一体何が?』
どれもこれも好奇心が引かれる内容ばかりだが、今の自分とは縁遠い階層の情報ばかり。何となく分かっていたことではあるけど、上層に関する情報は数が少ない。
「なんだこれ……?」
『巨大キノコが出現!?推定10メートルを超える巨大キノコの正体とは?』
あったとしても他の情報とは内容で圧倒的に見劣りしてしまう。
巨大キノコの出現って、こんなの誰が食いつくというのだ。謎である。
今の自分に役立ちそうな情報を血眼になってさがしてみるが、なかなか上手くいかない。かれこれ20分ほど掲示板の前でにらめっこをしていると目が疲れてくる。
一旦、近くのベンチにでも座って休憩でもしようかと考えていると後ろから声をかけられる。
「何をそんなに真剣に掲示板を見てるの?」
「あっ、シリルさん。おはようございます」
振り返るとそこには見知った職員、シリルの姿があった。
僕はペコリと挨拶をして再び掲示板に目を移す。
「はい、おはよう。それでなんでそんな長いこと掲示板を見てるの?」
「……見てたんですか?」
「そりゃあ私が受付をしているすぐ横にいたら嫌でも視界に入っちゃうよ」
「なるほど───」
「今は受付の仕事をしなくてもいいのか?」と隣に並び立ったシリルさんを横目で見て思うが、口には出さない。
変わりに僕は隣の彼女に別の質問をすることにした。
「───シリルさん。最近上層で高レベルのモンスターが出現した話とかありますか?」
「上層?それって何回層ぐらい?」
「10〜20階層の間ですね」
「10〜20階層ね。う〜ん────」
せっかく探協の職員が隣にいるのだから、直接何か良い情報がないか聞き出してみよう。
掲示板に張り出されていないだけで、意外と聞いてみれば欲しい情報が聞き出せるかもしれない。
期待をしつつシリルさんの返答を待っていると彼女は何か思い当たったようで「ポンっ」と手を叩く。
「───そう言えばこの間、15階層にレベル3の〈リゾネイトバッシュ〉が出現したって聞いたわね」
「ホントですか!?」
「え、ええ。30階層に向かってる途中の探索者が遭遇したみたい。その探索者はレベル5だったから難なく討伐はできたみたいだけどね」
「そうですか……」
求めていた感じの情報に一瞬テンションが上がるが、直ぐに続いたシリルさんの言葉でガックリと肩を落とす。
そんな僕の不自然な反応を見てシリルさんは首を傾げた。
「それがどうかしたの?」
「あー……いや、最近、探索する階層を10階層以降にしたので色々と情報収集でもしようかと……急に高レベルのモンスターと出くわして死にたくないので……」
「ふーん……真面目ねぇ。そういうことならこの張り紙にもある通り、最近の大迷宮は色々と異常事態が起きてるから気をつけてね」
疑うような視線を向けながらシリルさんは一つの張り紙を指さした。
『モンスターの大移動。各階層のパワーバランスが崩壊!一体何が?』
それは先程見かけた内容の一つだった。
再び内容を読み返しながら僕はまた質問をする。
「上層でも頻繁に起きてるんですか?」
「そうね。下層の方が報告例は多いけど、上層もそれなりって感じね。さっきの〈リゾネイトバッシュ〉然り、テイクくんが6階層で倒したっていう〈ハウルウルフ・コマンダー〉然りね」
「……知ってたんですか?」
「まあね。テイクくんの情報は逐一確認しているから」
「それはどういう───」
「意味ですか?」と聞こうとして口を噤む。本能でこの質問をここでするのは薮蛇だと感じたのだ。
僕はわざとらしく咳払いをして話を逸らす。
「ゴホンっ───この原因とかは分かってないんですか?」
「そうね。高レベルパーティーに依頼して色々と調べてもらってるけどイマイチかな。専門家の見解では最下層で新しい高レベルモンスターが出現して、その影響で各階層の生態系が変化してるんじゃないかって話よ?」
「なるほど……」
なかなか興味深い話が聞けた。
やはり張り出されている情報だけでなく、職員の人に直接話を聞くのも大事だ。
「お役に立てたかしら?」
「はい、とても!ありがとうございますシリルさん!」
「どういたしまして。補足だけど、この影響で死んでる人も結構出てるから本当に気をつけてね」
「はい!覚えておきます!」
色々と教えてくれたシリルさんに深く頭を下げてお礼を言う。
彼女はもう仕事に戻らないと行けないらしく「じゃあね」と手を振って受付の奥へと行ってしまう。
「……もしかして休憩時間に話しかけてくれたのかな?」
後ろに一つ結びにした焦げ茶の髪を尻尾のように揺らすシリルさんの後ろ姿を見送りながら、ふとそんな考えが頭を過る。
シリルさんの気遣いに感謝して、僕も掲示板を後にする。
ある程度の情報は手に入ったし、なかなか興味深い話も聞けた。収穫として上々だ。
後はこの情報をもとに今後の探索、試練をどうしていくか。
「明日の休みも使ってじっくり考えよう」
僕は足早に宿屋へと帰ることにした。
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