第24話 成長限界
無限に続く暗い洞穴。
奥に進めど眼前に広がるのは鬱屈とした洞窟ばかりで、全く代わり映えしない。
それでも探索者達はここへと毎日足を運ぶ。その理由はここに様々な夢や野望を叶える可能性が眠っているからだ。
それを掴み取れるかは運と実力しだい。
「これでトドメだ!!」
「グギャッ!?」
深紅の毛皮に頭部には立派な一本角、
ブレイクホーンは大量の血を吹き出して、地面を揺らしながら力なく平伏す。
そこで戦闘は終了する。その途端、右脇腹が激痛を訴えた。
「いてて……」
今しがたの戦闘でブレイクホーンの一本角による突進攻撃を躱し損ねたのだ。幸い、傷は深くないがそれでも結構な血が流れて痛い。
「大丈夫ですか!?」
それをエルフの少女───ルミネは見逃すことなく、直ぐにスキル【勇気の唄】によって傷を癒してくれる。
綺麗な唄声が体に活力を与えて、みるみるうちに傷口は塞がり痛みも和らぐ。相変わらずの回復性能に感心してしまう。
彼女のおかげで大して美味くもない
「……ありがとう、ルミネ」
「いえ……あまり無理はしないでくださいね?」
「うん」
お礼を言って辺りを見渡す。
【索敵】に他のモンスターの反応は感じられず、とりあえずはひと段落といったところだろう。
ルミネとパーティーを組んでから5日が経とうとしていた。
この一週間で僕達は
新しいモンスターとの戦闘に四苦八苦しながらもなかなか早いペースでここまで来ることが出来た。それもこれもステータスが着実に伸びているお陰だろう。
現在のステータスはこんな感じだ。
───────────
テイク・ヴァール
レベル2
体力:870/870
魔力:145/145
筋力:728
耐久:589
俊敏:987
器用:355
・魔法適正
無し
・スキル
【取捨選択】【鑑定 Lv1】【咆哮 Lv2】
【索敵 Lv1】
・称号
簒奪者
───────────
コマンダーとの戦闘以来、奴に匹敵するステータスを持ったモンスターとは遭遇しておらず、そこまでステータスは大幅に上昇した訳では無い。それでもステータスの数値だけを見ればレベル3に匹敵する能力値になっている。レベルアップする日も近いかもしれない。
ルミネも昨日の探協でのステータス更新でかなりステータスが伸びていたらしく。シリルさん曰く「レベル2に上がなるのも時間の問題だ」と言っていた。
まだ探索者として
ルミネが強くなるよは喜ばしいことだけど、やはり色々と思うところがないと言えば嘘になってしまう。「将来が楽しみね」と笑うシリルさんに僕は内心複雑な気持ちだった。
そんなこんなで9階層の探索は至って順調で、後2日もあれば完全踏破できそうな勢いだ。
「よし、休憩もそこそこにしてコイツを捨てるか」
思考を中断して腰掛けていた岩場から立ち上がり、無造作に転がっていたブレイクホーンの元へと近づく。
それにルミネもちょこちょこと後ろから着いてくる。
「今日はこのモンスターのステータスを拾うんですか?」
「うん。今日見た中では一番ステータスが高いし。今日はコイツにするよ───消去」
ルミネの質問に頷き、ブレイクホーンに触れてスキル【取捨選択】を発動させる。
瞬間、触れていたブレイクホーンは不自然に姿を消して、聞きなれた無機質な声がする。
『スキルの発動を確認。触れた対象にステータスが存在。死体からステータスとスキルの分離、一時消去に成功。
続けて【取捨選択】に入ります。死体を本当に捨てますか?ステータスを本当に捨てますか?』
「死体は捨てる。ステータスは拾う」
迷うことなく選択をして、直ぐに訪れてくるであろう激痛に備えていると、無機質な声はいつもと違う返答をした。
『選択を確認─────選択の実行をできませんでした。ステータスの合計値が上限値に達しています。これ以上のステータスの回収は不可能となります』
「………………は?」
それは全く予想していなかった返答。思わず僕は気の抜けた声しか出せない。
「テイクくん……?」
ルミネは横から僕の顔を心配そうに覗き込んでくるが、僕はそれに全く反応出来ず。今聞こえてきた無機質な声の言葉をよくよく頭の中で反芻する。
今、無機質な声───〈天啓〉はこう言った『ステータスの合計値が上限値に達しています』と。それはつまり、僕に成長限界が来たということか?
〈成長限界〉とは言葉の通り、その人間のステータスがこれ以上伸びないと言うこと。人は元々ある才能によってこの成長の上限が決まっているのだ。
それが今、このタイミングで、唐突に訪れた。
「嘘だろ……」
現実を受け止められない。無意識に体の力が抜けていくのが分かる。
遅かれ早かれ自分に成長限界が訪れるのは分かっていた。そもそも、全く成長率が良くなくて、一向に伸びる気配のなかったステータスを無理やりここまで上げてきた。そう考えればこんなにステータスが伸びたのは異常で、十分かとも思えるが、それでも納得なんてできるはずがなかった。
まだ探索者として強さが必要だった。ようやく夢を掴むための足がかりを見つけたと思った。ルミネとパーティーを組んで、これから本格的に大迷宮の攻略をしていこうと考えていた矢先にこれだ。
込み上げてくる悔しさに気が狂いそうになる。
「なんで…………!!」
「ど、どうしましたか?何かあったんですかテイクくん?」
大迷宮の硬い地面に拳を叩きつけて怒鳴る僕をルミネは心配をしてくれる。けれど、今はそれに反応できる余裕は全くない。
思考する。
まだ諦められるはずなんてなかった。こんなところで終わるつもりなど毛頭なかった。どんな方法を使ってでも強くなりたかった。
例え、自分の身に何が起きようとも、全てを犠牲にしてでも僕は────
「強くなりたい」
────力が欲しかった。
そう思った時だった。
再び頭の中に無機質な声が響く。
『選択を確認。スキル【取捨選択】が救済措置を発動します…………試練の挑戦権を獲得。試練に挑戦しますか?』
「え?」
理解の追いつかない無機質な声に戸惑っていると、視界に【鑑定】でステータスを見る時のような一つの表示が出てくる。
そこにはこう書かれていた。
──────────
・試練〈限界に挑みし者〉
ステータスの合計値が4500以上の敵1体を討伐(0/1)
・制限時間
30日以内
・成功報酬
能力値の限界突破
・失敗ペナルティ
能力値の完全リセット
・放棄ペナルティ
能力値の完全リセット
──────────
「試練……」
〈天啓〉の言葉を無意識に繰り返す。
確かにあの声はそう言っていた。目の前に現れたこれがいったい何なのかは分からない。
けど、どうやらこの〈試練〉って言うのをクリアすれば僕は一つ限界を超えることができるらしい。
『試練に挑戦しますか?』
再び無機質な声に問われる。
この試練の内容を見る限り、難易度が高いのは言わずもがなだ。それに失敗した時と放棄した時のペナルティが重すぎる。
まるでスキルが「腰抜けにやる力は無い」とそう言ってるような気がした。
「……」
色々と謎が尽きないけれど、今は分からないことを考えるよりも強くなるにはこの試練を受けるしかない。結局、試練を放棄した場合はステータスはリセットされてしまうのだ。選択の余地は一切ない。
ここで怖気付いてる暇なんて僕にはないんだ。
「挑戦する」
『選択を確認。試練に挑戦しました』
無機質な声は僕の返答に淡々と答えた。
───────────
テイク・ヴァール
レベル2
体力:870/870
魔力:145/145
筋力:728
耐久:589
俊敏:987
器用:355
・魔法適正
無し
・スキル
【取捨選択】【鑑定 Lv1】【咆哮 Lv2】
【索敵 Lv1】
・称号
簒奪者 挑戦者
───────────
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