第18話 レベルアップ
新しい武器〈
いつもの軽装備に着替えて、腰には昨日買ったばかりの〈不屈の一振〉を携える。持ち物ポーチにポーションや探索で使う小道具に不足が無いかを確認。
全ての準備が整い、後は大迷宮に行くだけと言うところである事を思い出す、
「そういえば昨日は新しい武器を買えたのが嬉しくて日課のステータスの確認をしてなかったな……」
基本的に一日に一回以上は自分のステータスを確認して、何かしら変化が起きていないか確認するのが日課になっているのだが、昨日は色々な事が重なって忘れてしまっていた。
昨日はハウルウルフのステータスを2体拾ったのでステータスにそれなりに変化があるはずだ。
「鑑定」といつも通りスキルを発動させて自分のステータスを確認する。
その瞬間、僕は自分のステータスを見て絶叫をした。
「ええええええええええ!?」
───────────────
テイク・ヴァール
レベル2
体力:670/670
魔力:105/105
筋力:570
耐久:365
俊敏:791
器用:277
・魔法適正
無し
・スキル
【取捨選択】【鑑定 Lv1】【咆哮 Lv2】
【索敵 Lv1】
・称号
簒奪者
──────────────
明らかに一つ変化している部分がある。
それはずっと変化することのなかった
「本当に……本当に僕がレベルアップ……!?」
視界にありありと映るステータスを見ても、思わず半信半疑になってしまう。
それぐらい僕にとってレベルアップは特別なものだった。
そもそもレベルと言うのはその人間を強さを段階順で分けたものの総称。最初はどんな人もレベル1から始まる。レベルの段階は1から最高10まであって、レベルは探索者の実力を見る一番の指標となっている。
レベルアップの条件は総合的な能力値の高さやその人間の成し遂げた功績と言われている。この条件がなかなか複雑で明確なレベルアップの方法は分かっていない。ただ能力値が高くなったからと言ってレベルが上がる訳では無いのだ。そこら辺は結構曖昧となっている。
スキル【取捨選択】のお陰で尋常ではない速さでステータスは上がっていたが、まさかソロで活動を初めてから一週間も経たずにレベルが上がるとは思っていなかった。
万年レベル1で燻っていた自分が苦節6年の時をかけてレベル2にレベルアップ。これが嬉しくないはずがなかった。
「そ、そうだ!こんなところでグズグズしてる場合じゃない。早く探協に行ってレベルアップの報告に行かなきゃ!!」
思い立ったが吉日。僕は新調したナイフの試し斬りの事をすっかり忘れて宿屋を飛び出して探協へと向かった。
長年間借りさせてもらっている宿屋の店主からは朝から奇声を上げたためか、変な目で見られてしまった。
・
・
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全速力で〈セントラルストリート〉を走って探協に到着する。
ステータスの上昇のお陰か、息一つ乱すことなく僕は足早に総合受付へと向かう。
今日はまだ早朝と言うこともあって探協にいる人はまだ疎らで直ぐに受付にたどり着くことができた。
元気よく受付の前へと行くと今日は見知った人が受付をしていた。
「探索者協会へようこそ!本日はどのようなご要件で───ってあら、テイクくんじゃない。おはよう」
「おはようございますシリルさん!」
親しげに挨拶をしてくれた女性職員に元気よく挨拶をする。
銀縁の丸メガネがトレードマークで、セミロングの綺麗な焦げ茶の髪を後ろで一つ結びにした美人な女性の名前はシリル・ウォルスさん。この探協に務めて5年になるベテラン職員さんだ。僕が探索者になった当初から色々と面倒を見てくれている優しいお姉さんだ。
たまにこうして受付で顔を合わせれば気軽に挨拶をして、暇な時はちょっとした雑談もする。
なんて良いタイミングなんだろうか。
一番最初のレベルアップ報告がいつもお世話になっているシリルさんなんて!こんなに嬉しいことはない!
そんな僕の心境を全く知らないシリルさんは落ち着いた様子で言葉を続けた。
「今日もテイクくんは元気ね。パーティーをクビになったって聞いた時はすごく心配したけど……今はどう?ソロでまだ大迷宮に潜ってるみたいだけど大丈夫?」
「はい!なんとかやれてます!!」
「それなら良かった……それで今日はこんな朝早くからどうしたの?それもそんなに興奮した様子で?」
僕の心配をしてくれていたシリルさんは「ホッ」と安堵の溜息を吐くと要件を尋ねてくる。それに僕は満面の笑みで答えた。
「なんとですねシリルさん!僕、レベルアップしたんですよ!!」
「え?レベルアップ?」
「はい!」
「────」
僕の報告を聞いて今までおっとりとしていた優しげな表情が曇る。そしてシリルさんはとても苦しそうに口を開いた。
「テイクくん、その……パーティーをクビになってショックなのは分かるわ。けどね、流石にその冗談はどうかと思うの……そもそもテイクくんは自分のステータスを確認する方法なんて────」
「───冗談でもなんでもないですよ!本当にレベル2になってたんです!そんなに疑うならその目でしっかりと確認してください!」
「…………分かりました。それじゃあ行きましょうか」
「はい!!」
全く信じてくれないシリルさんに僕は強引に言って、一緒にステータスを確認するために移動する。
連れられてきたのは一つの部屋。その部屋の真ん中には台座とその上に置かれた半透明な水晶玉だけしかない。
一見、殺風景な部屋でここで今から何をするんだと疑問に思ってしまうが、僕は一時期この部屋の常連だった。
「テイクくんとここに来るのは随分と久しぶりね」
「そうですね!ステータスの更新なんて2年振りです!」
「そう、もうそんなになるのね」
通称〈鑑定部屋〉、この部屋は真ん中にある水晶玉を使ってステータスやレベルが本当に上がっているのか確認する部屋だ。
僕が一時期この部屋の常連だったというのは、ステータスが少しでも上がっていないかと期待をして毎日この部屋を訪れていたためだ。
「久しぶりだろうけど使い方は問題ないわよね?」
「はい!全く問題ないです!」
シリルさんの言葉に頷いて僕は水晶玉の前へと出る。
この水晶玉は〈魔道具〉と呼ばれるもので触れた人のステータスを簡易的にではあるが鑑定することが出来る。
使い方は本当に簡単で、片手に羊皮紙を持ってもう片方の手で水晶玉に触れるだけだ。後は水晶玉方で勝手にやってくれる。
「どうぞご覧あれ!」
意気揚々と水晶玉に触れる。瞬間、水晶玉は淡い光を放って左持っていた紙に文字が刻まれていく。
数秒と経たずに水晶玉の光が収まると、手に持っていた紙には僕のステータスが魔法とスキル、称号の項目を省いて書き出されていた。
この通り、魔道具による鑑定はレベルと能力値の鑑定しかすることが出来ない。しっかりと自分のステータスを見たければ鑑定士に見てもらう必要がある。
今の僕にとっては色々と見られては不味いことがあるのでこっちの方が都合が良い。
僕はステータスが書き出された紙をシリルさんに渡す。
「どうですか?本当に上がってたでしょ!?」
「う、うそ!本当に……」
受け取った紙を見て絶句するシリルさん。何度か本当に見間違いではないか目を擦って確認までしている。全く疑り深いなぁ〜。
しかし、これで僕が本当にレベルアップしたということは証明できた。
鑑定部屋を後にして探協のロビーへと戻ってくる。
「これで僕は探協公認のレベル2探索者ですよね!シリルさん!」
「え、ええ、そうね……最初はテイクくんの気でも狂ったのかと思ってたけど確かにレベル2になってるわ……」
「やったぁあああああああ!!」
ハッキリとシリルさんのお墨付きを頂いたところで僕は今日一の声を出してガッツポーズをする。
人が少ないとは言え、周りは完全に無人という訳では無い。僕の急な雄叫びに周りにいた探索者や探協職員が一斉に僕たちの方を見る。
それにいち早く気づいたシリルさんは僕の口を乱暴に抑えて、総合受付のカウンターまで引っ張っていく。
「大きい声出さないの!!」
「ご、ごめんなさい……」
そして僕は受付の前で正座をさせられてシリルさんに叱られる。
シリルさんの一喝で僕は今までの異常に高揚した気分から一気に冷静さを取り戻す。
少し……いやかなりレベルアップが嬉しくてハイテンションになってしまっていた。
そんな僕の様子を見てシリルさんは再び大きな溜息を吐く。
「あのねぇ、テイクくんが今まで苦労してたのは知ってるし、レベルアップが嬉しいの分かるわ。私だって本当に嬉しい。
で・も・ね!朝からあんな大声出したら周りの迷惑でしょ?」
「はい……本当に申し訳ございません……」
諭すようなシリルさんの言葉が胸に突き刺さり僕は項垂れながら謝ることしか出来ない。
「それで、何があったの?」
「……え?」
「だから、急にレベルアップなんて何かあったんじゃないの?」
久しぶりに本気の反省をしているとそれを頬杖を付きながら眺めていたシリルさんが質問をしてくる。
「え〜っと…………」
それに僕は直ぐに返事をすることが出来ない。
レベルアップをすればこんな質問をされるだろうというのは予想できた。しかし、その予想を上回ってレベルアップが嬉しすぎて、勢いでここまで来てしまった。
正直に話すべきかどうか迷う。シリルさんは僕が新人の頃からお世話になっている大恩人であり、姉のような存在だ。その人にスキル【取捨選択】の事を話しても本当にいいのだろうか?
スキルとは探索者にとって強さの秘訣であり切り札だ。その詳細をいくら付き合いが長い、お世話になったからと言って話すべきでは────。
一分程考え、沈黙していると先にシリルさんの方が折れた。
「はあ……ごめんなさい。探索者の詮索は探協職員としてはマナー違反ね。ごめんなさい、今の言葉は忘れて」
「い、いえ。僕の方こそごめんなさい……」
シリルさんの大人な対応に助けられつつも僕は胸の中に嫌なモヤがかかる。
気まずい空気が僕たちの間に流れる。正座をやめにやめられず、この状況をどうしようかと頭をフル回転させていると背後から声をかけられる。
「あの……テイクさん。何をしているんですか?」
「え?」
振り向くとそこにはココ最近随分と遭遇率の高い、エルフの少女───ルミネさんが困惑した表情で僕を見ていた。
おお、救世主よ……。
この時、僕は彼女の登場にこの気まずい空気から逃げることができると歓喜したが、直ぐにまた頭を悩ませることになる。
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