第17話 掘り出し物

 ズラリと上等な刃物が並べられたショーケース。その光景は圧巻で思わず息を飲む。


 今回買う武器種は今見ているコーナーからお察しの通りナイフだ。

 元々、筋力の関係で仕方なくナイフを使っていたが。様々な戦いを経ていつの間にかナイフが手にしっくりと馴染んでしまった。今更、新しい武器に乗り換えるのも違う気がしたので新しく買う武器はナイフにした。


「ふむ……」


 スキル【鑑定】を使いながら一定のペースでショーケースを見て行く。


 さすがは名匠の弟子達と言ったところか、どのナイフも出来が素晴らしく良く、耐久値も平均500越えと申し分ない。どうやら今まで僕が使っていたナイフは相当なナマクラだったのだと分かる。


 弟子でこのレベルならば、名匠クロックバックが作るナイフとは一体どのような性能をしているのだろうか。一階に飾られていた装備もクロックバックのものではなかったし一度はお目にかかりたいものだ。


「うーむ……」


 それはそれとして悩む。

 品揃えの良さ、性能の良さにどのナイフも素晴らしく見えてなかなか決められない。もう何周と同じコーナーを見て回っているが、回る事に「これ良い!」と思ったナイフが変わってしまう。


 更に10分ほど、そんなことを続けていると流石に目も疲れてくるわけで、一旦休憩しようと考えていると一つの武器に目が止まった。


「ん?アレは……」


 ショーケースの端の端。何周もしてようやく気づくほど地味で、他の武器に埋められるように陳列された一本のナイフに目が止まる。


 他のナイフよりも少し濃い鈍色をしており、刀身もナイフにしては長い。全体的に暗めの色をしたそのナイフが妙に気になって、切っていた【鑑定】を再び発動させる。


「鑑定…………はっ!?」


 そして視界に写ったナイフのステータスに驚愕する。


 ──────────

 不屈の一振ペルセヴェランテ

 耐久値:2000/2000


 ・特殊付与エンチャント

 切れ味補正(上昇)


 作成者

 ヴィオラ

 ──────────


 耐久値が他のナイフに比べて物凄く高いことも驚きだが、何よりも目に止まったのは特殊付与が施されているということだ。


〈特殊付与〉それはスキル【付与】によって物に様々な特殊効果をつけることが出来ること。基本的にスキル【付与】を持った付与師エンチャンターに大金を払って付けてもらうことが出来る代物だ。


 それが何故、見習いの鍛冶師が作った武器を陳列しているショーケースに、しかも凄く目立たないところに隠しているかのように置いているのだろうか?そもそも無名の鍛冶師が作った武器でも〈特殊付与〉が施された武器ならば引く手数多だ。こんな地味なところに置いてある意味がわからない。


「もしかして物凄く高いとか……いや、すごく安い。なんなら被さるように置いてあるナイフの方が高いし……」


 ショーケースに張り付いてまじまじと値段を確認してみるがお値段はなんと1万2千メギル。どう考えても安すぎる。


 他のナイフと比較してみてもそのナイフだけ明らかに安い。どうなっているのか?


「……」


 少しの間〈不屈の一振〉なるナイフをじっと見つめて思案してみるが、いくら考えてみてもこんな破格のナイフがここにある意味が分からない。


 そこにここの店の店員であろう男が背後を通り過ぎようとしたので、すかさず声をかける。


「あの、すみません」


「はい、何かお探しでしたか?」


 呼び止められた店員はくるりとこちらを向くと完璧な営業スマイルで聞いてきた。それに僕は質問をする。


「このナイフの値段って本当にあってますか?」


「はい……ああ、このナイフですか。ええ、間違いなくこのお値段で間違いありません」


「ま、間違いじゃない……」


「はい」


 すると〈特殊付与〉が施されたナイフの質問をすると一気に店員の顔が気だるそうなものになる。その態度の変貌ぶりに思わず驚く。

 そして店員はこう言葉を続けた。


「そのナイフはやめといた方がいいかもしれませんよ?なにぶん才能の無い女鍛冶師が作った駄作なので」


「……このナイフが駄作?」


「ええ」


 店員の棘のある言葉に僕は別の意味で驚く。

 このナイフが駄作だって?この店員は何を言ってるんだ。こんなのそうそうお目にかかれるものじゃない。


「そちらのナイフより。こちらの赤い刀身のナイフはいかがですか?こちらは我が工房の期待の新人が作った最高の一品でして、このお値段で買えるのはとてもお得かと───」


「じゃあこのナイフください」


「え?」


 呆けていた僕に男の店員は別のナイフをオススメしてくるが、僕にはもうこの鈍黒のナイフにしか目がいかなかった。


「ほ、本当にこちらのナイフで良かっですか?」


「はい。お願いします」


「か、かしこまりました……」


 再度確認してくる店員に僕は力強く頷くと、店員は渋々と言った様子でナイフ〈不屈の一振〉をショーケースから出して手渡してくる。


「商品の確認をお願い致します」


「はい───」


 近くで見ると更に凄さが分かる。

 大迷宮でよく取れる黒鉄魔石をベースの素材にして作られたナイフ。当たり前だが刃こぼれひとつなく、遠目で見た時はくすんで見えたがとても透き通った刀身をしている。よくよく見れば大峰の部分に小さくヴィオラと鍛冶師の名前が刻まれていた。


「───大丈夫です。このナイフ買います」


「あ、ありがとうございます。それではお会計をしますのでカウンターの方までお願いします」


「はい」


 困惑した店員に案内されてそのまま会計を済ませる。

 規定額を払って再びナイフを受け取るとそのナイフは完全に僕の物になった。


「またのお越しをお待ちしております」


 最後まで腑に落ちない顔をしていた店員に丁寧に頭を下げて見送られる。

 どうしてそんなに不服そうなのか僕は不思議に思いながらも、新しい武器を手に入れたことが嬉しかった。


「これからよろしく、不屈の一振ペルセヴェランテ。それと君も今までお疲れ様」


 ボロボロになったバトルナイフから新しく買った不屈の一振へと装備を交換する。

 そして今まで頑張ってくれたナイフに労いの言葉をかけて僕はスキル【取捨選択】を発動した。


「消去」


『スキルの発動を確認。触れた対象にステータスが存在。バトルナイフからステータスを分離、一時消去に成功。

 続けて【取捨選択】に入ります。バトルナイフを本当に捨てますか? ステータスを本当に捨てますか?』


「ナイフは捨てる。ステータスは……拾う」


 無機質な声と同時に手に持っていたバトルナイフ消え去り、取捨選択をする。

 まさかとは思ったが本当にナイフのステータスも取捨選択できるとは思わなかった。ナイフも……というか物もモノ(死体)扱いなのか?

 果たして拾ったこのバトルナイフのステータスはどうなるのかと思っていると、無機質な声は続けた。


『選択を確認。バトルナイフはスキルの亜空間へと収納されます。バトルナイフから獲得したステータス───耐久値:150/150を割り振ります。どの武器に割り振りますか?』


「えっと……その耐久値は不屈の一振ペルセヴェランテに振ることができるんだよね?」


『耐久値:150/150を装備中の不屈の一振に割り振りますか?』


「あっ、はい……」


『選択を確認。ステータスを割り振ります……成功しました』


 スキルに促されるままにステータスを不屈の一振に割り振る。しかも元々の耐久値がすべて割り振られるらしい。

 鑑定で不屈の一振を確認してみれば確かに耐久値が150上がっていた。


「僕だけのステータスじゃなくて、武器のステータスも上げる事が出来るのか……」


 つくづく規格外なスキルだ。本当にどうなっているのだろうか?


「────っと、そういえばルミネさんの所に行く前に武器買っちゃった。ルミネさん、もう一通り見終わったかな?」


 新たなスキル【取捨選択】の能力に呆然としていると、一緒に来ていたエルフの少女のことを思い出す。


 そして僕は足早にカウンターを後にして防具が陳列されているコーナーへと行った。


 全身甲冑フルメイル革甲冑レザーメイル鎖帷子チェーンメイルなど立派な防具たちが陳列されている所にたどり着くと、直ぐに目的の人物を発見する。


 全身甲冑などが置いてある陳列から少し離れた耐性ローブが陳列されたコーナーにルミネさんはいた。


 何やらブツブツと呟いているルミネさんに声をかける。


「これもいい……でもこれも────」


「何か気に入った装備はありましたか?」


「───あっ!テイクさん!」


 ルミネさんは僕に気づくと今まで眉間に寄せていた皺を解いて、パッと可愛らしい笑顔で振り向いた。

 思わずその不意の仕草にドキリとしてしまうがなんとか平静を装う。


「その2つで悩んでるんですか?」


「はい、そうなんです。なかなか決められなくて……」


 見てみるとルミネさんは真紅のローブと深緑のローブを手に持ってどちらを買うか迷っていた。


「どこの部分で決めあぐねているんですか?」


「えっと……値段はどちらも似たようなもので、どっちも火に強い素材で作られたローブなんですけど……どっちの色がいいかと思って……」


「なるほど」


 質問をしてみるとなんとも女の子らしい理由が返ってきた。

 実質どちらのローブを選んでも性能に変わりはないが、せっかく身につけるのだから自分に似合うローブを選びたい。そいうことだった。


「テイクさんはどっちがいいと思いますか?」


「えっ!?ぼ、僕ですか?」


「はい。もう自分ではどちらも良すぎて決められないのでテイクさんの意見を聞きたいです」


 なんとも微笑ましい理由だなぁ、と思っているととんでもない無茶振りが飛んできた。

 まさかここで意見を求められるとは思っていなかった。


 やんわりとどっちつかずの回答をしようと考えるが、彼女のその真剣な眼差しからそんな不誠実な事をするのは気が引けたので真剣に答えるしかない。


 だが、僕が最近の女子のトレンドや趣味なんかを知っているはずなんてないし。正直、装備なんてのは変なものでは無い限り色なんてどうでもいいと思っている僕からすればこの質問は激しく答えずらかった。


 やはり「どっちでもいい」なんて答えは論外な訳であって、その結果導き出せる最適解は────


(鑑定……)


 ────スキル【鑑定】で耐久値が少しでも高い方をオススメしようと言うスキルだよりな答え。

 そして困った時に頼りになる【鑑定】さんが導き出したオススメは深緑のローブだった。


「えっと……その緑のローブ……かな?」


「どうしてこっちの方がいいと思ったんですか?」


「うぇ!?い、いや〜────」


 サラッと深緑のローブを勧めるがエルフの少女はそれだけでは許してくれない。

 そしてまさか更に質問が飛んでくるとは思っていなかった僕は勢いのままに口を開いた。


「────そ、その……緑の方がルミネさんな綺麗な金糸雀色の髪に良く似合うと思ったから……です……」


「っ!じゃ、じゃあこれにしますっ!」


「え、あ、はい……」


 僕の勢い任せの理由にルミネさんは少し頬を赤らめるとそう言って、満面の笑みで深緑のローブを会計へと持っていった。


 我ながら即席で考えたにしてはまともな返答に満足して、僕は会計を済ませたルミネさんとクロックバック武具屋を後にした。





 ─────────────────

 テイク・ヴァール

 レベル───


 体力:670/670

 魔力:105/105


 筋力:570

 耐久:365 

 俊敏:791 

 器用:277


 ・魔法適正

 無し


 ・スキル

【取捨選択】【鑑定 Lv1】【咆哮 Lv2】

【索敵 Lv1】


 ・称号

 簒奪者

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