第15話 替え時

 ルミネさんとお茶をしてから一日。

 身体的にも精神的にも全快した僕は再び大迷宮へと赴いていた。


「これで12体!!」


 飛びかかってくるハウルウルフをナイフで一閃。飛び散る鮮血と力なく地面に転がり落ちたハウルウルフを見て戦闘は終了する。


 現在、僕がいるのは大迷宮第6階層。隈無く階層内を探索している最中だった。


「ふう……」


 額にじっとりと浮かんだ汗を拭って、転がったハウルウルフの死体に近づく。

 討伐をした証になる尻尾を切り取って、残った死体は捨てる。


「消去」


『スキルの発動を確認。触れた対象にステータスが存在。死体からステータスとスキルの分離、一時消去に成功。

 続けて【取捨選択】に入ります。死体を本当に捨てますか?ステータスを本当に捨てますか?』


 ポツリと呟いた言葉に触れた死体は消え去り、無機質な声が答える。随分と聞き慣れたその声に僕は「全部捨てる」と答えて立ち上がる。

『選択を確認。死体は───』と無機質な声が様々な処理を行ってそれを報告してくれる。それを話半分に聞いて辺りにモンスターがいないかを確認する。


 今しがた倒したハウルウルフで今日のモンスター討伐数は12体目。頗る順調にモンスターを倒してここまで来た訳だが、僕はまだ今日一度もスキル【取捨選択】を使ってモンスターのステータスを拾っていなかった。


 その理由としては効率よくステータスを上げるためだった。

 無闇矢鱈と目に付いた雑魚モンスターのステータスを拾うのではなく、ちゃんと厳選しようということだ。


 今のところ【取捨選択】の使用回数は一日に最大で2回。それなりにステータスも上がってきて、モンスターとの戦闘も余裕を持てるようになってきた。そのアドバンテージを活かして、【取捨選択】が使える2回の質を高めようと考えた。


 コマンダーのステータスを拾って強く思った。このまま雑魚のステータスをちまちまと拾って強くなるのは時間がかかりすぎると。格上のモンスターと戦うのは大きな危険を伴うが、それに見合ったリターンもある。


 何事もノーリスクで自分の欲しいものが手に入るなんて上手い話はない。リスクを犯してでも僕は夢を叶えると決めたのだ。ならば選択は一つだ。


 そういう考えもあってなるべくステータスの高いモンスターを探して大迷宮を探索しいるのだが、なかなか「コイツだ!」というモンスターと遭遇しない。


「索敵に反応は無しか……」


 コマンダーのステータスを拾った時に手に入れたスキル【索敵 Lv1】を使ってモンスターを探し、見つけたモンスターをスキル【鑑定】で吟味、そのまま倒して全部捨てる。

 そんなことを今日はかれこれ2時間ほど続けていた。


 半径30メートル以内に存在する生命体を感知することが出来るこの【索敵】のお陰でモンスターを狩る効率がとても上がった。

 もう一つ手に入れたスキル【咆哮 Lv2】は多対一の場面でとても便利だ。効果によれば『格上の敵には効果が無い』とあったが6階層程度なら今のところ問題は無く、全てのモンスターを拘束することが出来ている。


 このとおり、コマンダーとの戦闘で得たものはとても多かった。ステータスやスキルの面でもそうだが。なにより、一つの死線を乗り越えたことで戦闘に対する精神的な安定感が段違いに上がった。


 そんなこともあって6階層の本格的な探索を始めてからまだ2時間ほどだが、だいたい階層の8割は探索し尽くしてもう少しで次の7階層へと続く階段部屋にたどり着こうかと言うところだった。


「このまま今日は7階層のまで行ってみようかな?」


【索敵】にモンスターの反応が無いかを確認しつつ薄暗い洞窟内を進んでいく。

 完全に反応が無いのを確認してから手に持っていたナイフを鞘に収めようとしたところであることに気づく。


「ん?あれ?」


 ナイフを収めようとしていた手を止めて、再びナイフを取り出してまじまじと自分の得物を見てみる。

 すると視界に入ったナイフはお世辞にもモンスターと戦える見た目をしていなかった。


 モンスターの血でところどころ刀身は錆び付いており、刃こぼれも酷かった。

 一目で手入れがされていないというのが丸わかりだ。よくまあ今までこんなお粗末なナイフでモンスターと戦ってきたもんだ。と、呆れられても仕方がないくらいに僕のナイフはくたびれていた。


「……鑑定」


 見るまでもないのだが、とりあえずナイフのステータスを見てみる。


 ────────

 バトルナイフ

 耐久:10/150

 ────────


「あ……これはダメだ……」


 やはりと言うべきか、まだ買ってから一週間もしないうちに僕のナイフはお釈迦になりかけていた。

 コマンダーとの戦闘で無理をしすぎたツケが回ってきた結果とも言える。


 数値としてありありと見せられてしまえば、こんなボロボロのナイフでこの先の階層を攻略しようなんて気は無くなる。


「やっぱり安物はダメかぁ〜」


 適当な鍛冶屋で耐久値が他の武器よりもちょっとだけ高いと言う理由だけで購入したこのナイフ。やはり、探索者として命を預けるモノなのだから適当に選んではダメだった。


 だいぶ愛着が湧いてきたところであったけれど、早急に新しい武器を買う必要がある。


「まだ時間は早いけど、今日は切り上げて武器でも見に行くか」


 急遽予定を変更して、僕は足早に地上を目指す。


 帰る道中、ナイフに無理のないようにモンスターを倒してステータスを拾った。今日は休み明けと言うこともあり、ハウルウルフのステータスを2体分だ。

 コマンダーの時に比べれば痛みは軽く、地面をのたうち回るほどのものではなかったが、それでも痛いものは痛くて軽く涙目になってしまった。

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