第12話 犠牲と報酬

「……」


 ルミネさんの完全に誤解を招きそうな発言に、僕の胃がマッハでストレスを感じる。

 話の方向性もなんだかおかしな方へ傾きかけている。

 そこで僕はなんとか話の方向性を正すために、ルミネさんには悪いと思いながらも一つの質問をした。


「えっと……軽い自己紹介も済んだところで色々と何があったか聞いてもいいですか?」


「ッ……はい、そうですね。助けていただいたテイクさんにはどうしてあんな事になったのか話した方がいいですね……」


 ルミネさんは僕の言葉を聞いて今まで楽しそうに緩めていた表情をピシャリと暗いものに変えてしまう。

 そんな彼女を見て心が痛むがこれは確認事項として聞かなければ行けないことだ。だいたい察しはついてるが致し方ない。


 そうしてルミネさんの口から聞かされた話は、予想していた通りの内容であった。


 パーティーを組んで仲間と大迷宮を探索していて、新しい狩場としてこの第6階層に今回初めて来た。新しいモンスターとの戦闘に戸惑いはしたもののすぐに対応して、調子に乗り少し奥まで探索することにした。そこで出会ったコマンダーが率いる群れ。予想外の数と統率力にパーティーは瓦解、あえなくルミネさん以外のメンバーが全滅。そこに僕が助太刀に入り、ルミネさんは助かった。


「ひっぐ……うっぐ……」


 話しているうちに色々と思い出してしまったのか、ルミネさんは途中から泣いてしまった。

 本当に申し訳ないことをしてしまった。


「ご、ごめんなさい。泣いてしまって……」


「いいえ。僕もすぐにこんな話をさせてしまってすみません」


 謝るルミネさんに更に謝って場は最悪の雰囲気になる。わかっていたことだが気まづい。

 気の利いた言葉一つも言えず、所在なさげに明後日の方向を見ているとあることに気づく。


 それは体の調子がすこぶる良いのだ。

 もっと言ってしまえばハウルウルフ達に付けられた切り傷や噛みつきの跡や、コマンダーにボッキリと折られた筈の左腕が完治しているのだ。

 もう本当に装備だけがボロボロで、跡形もなく治っている。


 このことに僕は首を傾げる。

 回復ポーションを飲んだ記憶はないし、そもそも手持ちにあれだけの負傷を完治できるポーションは無い。ソロなのでヒーラーなんてのもいないし、体が全快してるのはおかしい。


 考えられるとすれば目の前で泣いているルミネさんが何かしら施してくれたのだろうが……今このタイミングでそれを確認していいべきか?


「えっぐ……ふぐっ……」


「……」


 暫し悩んでいると目の前のルミネが自責の念に駆られて酷い嗚咽をしているので、このは再び話題転換の意味も込めて聞くべきだろう。


「えっと……僕の傷を治してくれたのってルミネさんですよね?ありがとうございました」


「えっ……?いえ、そんな、お礼なんて……テイクさんは命の恩人ですし当然です」


「本当に助かりましたよ。こんなに綺麗に治してもらって、ルミネさんは回復魔法が使えるんですね」


 なんとか彼女を泣き止まれることに成功してさらに質問してみる。すると彼女から帰ってきた返事は少し予想と違った。


「あっ……私のは回復魔法じゃなくてスキルなんです。【勇気の唄】って言う指定した相手に回復や様々な能力向上のバフをかけることが出来るんです」


「なるほどスキルでしたか。というか希少な回復スキルでしかも凄く多彩なスキルですね。一人で色々な支援ができる」


「そんな便利なスキルでもないですよ。まだスキルLvが低いのもあって、かけられるバフは2個までで、バフをかけるまでに時間もかかっちゃいますし……」


 スキルを褒められて嬉しかったのかルミネさんは気恥しそうに答える。そんな彼女の表情を見て心の中で安堵する。


「とても素敵なスキルだと思いますよ。ありがとうございました」


「いえそんな!当然のことをしたまでです」


 再び頭を下げてお礼をする僕に謙遜するルミネさん。

 場の雰囲気をなんとか持ち直すことが出来たところで、僕は一息ついて立ち上がる。


「それじゃあ体が絶好調なうちに上に戻りましょうか。ルミネさんもおつかれかもしれませんがもう少し頑張ってください」


「あっ……はい。えと……その前によろしいですか……」


「?」


 ルミネさんに待ったをかけられて首を傾げると、彼女はとある方向を指さした。


「あの……一応、テイクさんが討伐したボスっぽいハウルウルフも一緒に持ってきたんですがどうしますか?」


 そこにあったのはハウルウルフ・コマンダーの死体だった。まさか安全地帯まで彼女がこれを運んできてくれているとは思わず驚く。


 ルミネさんは他の死体を持ってこれずに申し訳なさそうにしているが、コマンダーの死体だけでも十分すぎる。


 正直な話、死ぬ思いで倒したコマンダーの素材やステータスを拾えないのは少し……いやかなり勿体ないと思っていたのでこれは嬉しい誤算だった。彼女の気遣いに感謝しよう。


「まさか持ってきたくれたなんて……ありがとうございます!」


「いえそんな。これも当然のことをしただけです」


 またも謙遜するルミネさんに苦笑しつつ、僕はコマンダーの死体へと近づく。


 まずは討伐した証となる尻尾を剥ぎ取る。そのまま流れるように死体に触れて呟いた。


「消去」


 次の瞬間、触れていたコマンダーの死体が不自然に消えて、無機質な声が脳内に響く。


『スキルの発動を確認。触れた対象にステータスが存在。死体からステータスとスキルの分離、一時消去に成功。

 続けて【取捨選択】に入ります。死体を本当に捨てますか?ステータスを本当に捨てますか?』


「死体は捨てる。ステータスは拾う」


『選択を確認。死体はスキルの亜空間へと収納されます。ステータスとスキルを割り振ります……成功しました』


 慣れた感じで言ってスキルの発動に成功する。

 すると分かりきっていたことだが、全身に今までの比ではない激痛が走る。


「うっ───ぐっ───あがっ────!」


 体の仕組みが全て作り替えられるような感覚。今まで一番高いステータスを拾った所為かゴブリンや他の魔物とは全く別次元の痛みだ。少しでも気を抜けば意識が飛ばされる。


「だっ、大丈夫ですかテイクさん!!」


 急に地面に転がってもがき苦しみ始めた僕を見て、ルミネさんは慌てて駆け寄ってくる。


 ……しまった。いつも流れでステータスの更新をしてしまった。そりゃあいきなり目の前の人がこんな大袈裟に苦しみ始めたら心配もするよな……ちょっと配慮が足りなかった。


 後悔したところでもう時すでに遅し。ルミネさんは泣きそうな顔でスキルまで発動し始めた。


「〜〜〜〜〜」


 痛すぎてよく聞き取れないがスキルの名前の通り何かの唄を歌っている。

 とても綺麗な透き通る声で、自然と耳に入ってくる。段々と体の内から暖かくなってくる。スキルの効果でそうなっているのだろうが、肝心の痛みは全く引く気配がない。


「がっ────!!」


「うそ!【勇気の唄】でも癒せない痛みなんて……」


 ルミネさんは歌うのを止めると驚いたように目を見開く。


 せっかく歌ってもらって申し訳ないが、後もう少しすれば痛みは引くはずだ。だから、そんな悲しそうな顔をしないで欲しい。


 僕のそんな願いは届くことはなく。結局、全身の激痛が引くまでルミネは優しく僕の背中を撫でてくれていた。


 いつもより長かった激痛にげっそりとしながら、なんとか立ち上がる。

 そんな僕を見てルミネさんはとても心配そうな眼差しを向けてくる。


「あの……今のはいったい……それにハウルウルフの死体も消えて……」


「えっと……まださっきの傷が完全に治ってなかったみたいでちょっと大袈裟に痛がっちゃいました」


「で、でも、私のスキルも───」


「いや、本当に情けない所をお見せしました!もう痛みは完全に無くなったので気を取り直して上に戻りましょう!!」


 あまり無闇矢鱈と【取捨選択】のことは話さない方がいいかもしれない。

 僕はそう判断し色々と聞き出そうなルミネさんの質問を有耶無耶にする。


 彼女には申し訳ないがこればかりは仕方がない。僕は空元気で地上へと続く道を歩き始めた。





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テイク・ヴァール

レベル1


体力:460/460

魔力:55/55


筋力:390

耐久:195 

俊敏:491 

器用:217


・魔法適正

無し


・スキル

【取捨選択】【鑑定 Lv1】【咆哮 Lv2】

【索敵 Lv1】


・称号

簒奪者

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