第11話 安らかな目覚め
「んっ……」
目が覚めると視界一面に薄暗い土の天井が広がっていた。
いつもとは様子のおかしいその寝起き一発目の風景に疑問を抱くが、直ぐに納得する。
よくよく思い返さずとも、頭の中の記憶が蘇る。
全滅したパーティーの生き残りである女の子をコマンダー率いるハウルウルフの群れから何とか助けた後、僕はそのまま疲れ果てて眠ってしまったのだ。
大迷宮の中で無防備に寝るという自殺行為をしておいて、何事もなく目覚めれたということはまだ僕はなんとか生きているということだろう。
一見するとここは
命の恩人を探そうと視界を彷徨わせると、直ぐに探し人は見つかった。
「あっ!目が覚めましたか?」
あどけなさが残る女の子の声が頭上から聞こえてきて、目線をそちらに向けるとそこには安堵した表情の女の子がいた。
サラリと絹糸のように流れる金糸雀色の髪に、宝石と見間違えるほど綺麗な翡翠色の瞳、白い肌に、よく通った鼻立ち。その女の子は凄く可愛らしかった。
そしてそんなことよりも気になるのは普通の人よりもスラリと長い耳だ。その子は俗に言う〈エルフ〉だった。
「お、おはようございます……」
こんな可愛らしい女の子にモーニングコールされるなんてのは初めての経験で、思わず上擦った声が出てしまう。
女の子は俺の冴えない反応を見て「?」と不思議そうに首を傾げて口を開いた。
「本当によかったです。このまま目が覚めないんじゃないかと……」
「えーと……あなたは……」
再び安堵のため息を漏らす女の子。それに対して僕は困惑することしか出来ない。
大迷宮の中で目覚めた訳は分かったが、目の前の女の子は一体何者なのか?
───いや、ちょっと待てほしい。この綺麗な金糸雀色の長髪、どこかで……。
「あっ!すみません、自己紹介がまだでしたね。私の名前はルミネ・アドレッドと言います。この度はハウルウルフの群れから助けていただき、本当にありがとうございました」
「あ、いえいえ。ご無事で何よりです……」
女の子の自己紹介とお礼を聞いて確信する。
やはりそうだ。あの時はフードを目深に被って表情はよく窺えなかったが。この口ぶりから目の前のエルフの女の子は僕が助けた子で間違いない。
確認がついてホッと安堵すると、次は女の子が困った様子で眉を下げて聞いてきた。
「あの……お名前を聞いても……」
「あっ……ごめんなさい。僕はテイク・ヴァールと言います。どうぞよろしく」
「テイクさんですね。改めて本当に助けていただきありがとうございました」
「っ……いえいえ……」
自分が自己紹介をするのを忘れて、慌てて名乗ると女の子───ルミネさんは再び頭を下げてお礼をする。
それと同時に視界いっぱいにルミネさんの綺麗なご尊顔が広がる。思わずそれに息を飲んでしまう。
……そもそも、今の僕のこの状況はどうなっているんだ?
地面に寝転がっているのは分かる。それにしては頭の高さがちょうどいいし、何よりゴツゴツとした地面に寝ている感覚ではない。これは、程よく弾力があってすべすべでいい匂いがして────
「っ!!す、すいません!すぐにどきますね!!」
───そこで自分の今の状況を完全に理解する。所謂、膝枕。男に生まれたからには一度は好きな女の子にしてもらいたいこと上位にランクインするシチュエーションだった。
僕は慌ててルミネさんの膝から頭を退けようと立ち上がる。
ものすごく名残惜しいが、しっかりと立ち上がって彼女の正面に腰を据える。
「あっ、まだ寝ていても大丈夫ですよ?」
「い、いえ……さすがにずっとお借りしてるのは忍びないです」
「……お気に召しませんでしたか?」
するとルミネさんは残念そうに顔をしょんぼりさせると、追撃でそんな答えづらい質問をしてきた。
正直に言って最高だった。
……いやそもそも、お気に召すとか召さないとかの話では無いのだ。
女性経験が幼馴染以外皆無な僕にとってあの状況は少し精神衛生上宜しくない。何よりもあの状況だと自分が物凄く悪いことをしているような気分になるのだ。そこにいるはずがないのに幼馴染に白い目で見られているような気がするのだ。
だから別に根本からその質問は間違っているのだ。しかし、もう一度最後に言わせてもらうが最高でした。
「い、いえ、そんなことないですよ。お陰でとても首も痛くないですし助かりました」
などと馬鹿正直なことを言える度胸は僕にないので、適当なことを言ってはぐらかす。
「ほんとですか?」
「は、はい。でも色々と聞きたいこともあるので、寝たままというのは失礼です。なのでその、膝枕はもう大丈夫です……」
「よかったです。殿方にするのは初めてだっので、気持ちよくできたのなら嬉しいです」
「っ─────」
上目遣いで心配そうに見てくるルミネさん。それに僕は再び息を飲む。
待って。その発言は聞きようによっては色々とまずいよ。多方面に誤解を産みかねないし、場合によっては衛兵さんにお世話になることになってしまう。
僕の心情を知ってか知らずか、目の前のエルフっ子は頬を少し赤らめてモジモジとしている。
そんな彼女の様子を見て僕は胃がキリキリと痛くなってきた。
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