第306話 長老の主張とチョロチョロにゃんごろー

 盗み食い常習犯として海猫クルーから指名手配を受けていることをバラされてしまった長老。

 養い子ネコーは、全身のもふ毛を逆立て、怒り心頭のお顔で可愛いお説教タイムへ突入した。

 だがしかし。そんなことで素直に反省するような長老ではない。反省などしていないが、長老は子ネコーの好きにさせていた。子ネコーは、怒りに任せてポコポコと長老のお腹を叩いてくるが、白くて長いもふぁもふぁに守られているため、ちっとも痛くない。最後に「めっ! めっ! めーっ!」と肉球をピシピシ突きつけて、子ネコーのお説教タイムはひとまず終わった。怒りの方はまだ治まっていないようだが、怒りによる興奮に任せて突っ走ったせいでスタミナ切れを起こしているのだ。子ネコーは「ふぅ、ふぅ。はふ、はふ」と肩で息をしている。

 その隙を狙って、長老は反撃に転じた。


「にゃんごろーよ、聞くがよいのじゃ」

「ふー……。ふー……。…………ほぇ?」

「よいか。長老の盗み食いは、警護の練習のためにしていたことなのじゃ!」

「……………………」


 ババンと胸を張り、長老は無実を主張した。疲れと軽い酸欠により、少し虚ろになっていた子ネコーのお目目が、クンっと吊り上がった。「騙されないぞ」のお顔で、にゃんごろーは長老を睨みつける。

 キラキラ姉妹たちは、ワクワクハラハラとこの事態を見守っていた。ふたりは見学会の続行よりも森のネコー劇場開演の方をお望みのようだ。

 いずれにせよ、勝手に幕は上がっていく。


「悪い奴らの悪さを止めるのが、警備のお仕事じゃ。じゃが、悪い奴らが悪さをするなど、そうしょっちゅうあることではないのじゃ。あったら、困るしの」

「しょれは、しょーらね?」

「うむ。じゃが、そうなると、人は油断をしてしまうのじゃ。何にもない日が続くとじゃ。昨日も一昨日も何もなかったから、きっと今日も何もない、とつい思ってしまうものなのじゃ」

「ちゃ、ちゃしかに……」


 あんなに警戒していたのに、にゃんごろーはすっかり長老の術中に嵌っていた。長老は内心「しめしめ」と思いつつ、それをおくびにも出さずに話を続ける。


「そこで、長老の出番なのじゃ!」

「ほ、ほぅ?」

「長老が日々、小さな盗み食いを続けることで、警備をしている海猫クルーに悪者を捕まえる練習をさせてやっているのじゃ!」

「…………ん、んぅー?」


 ここで少々躓いた。騙されかけていたにゃんごろーが、もふっと腕を組み、不審そうなお顔で首を捻る。だが、長老は少しも怯まなかった。我こそが正義とばかりに、主張を続ける。


「聞くがいい、にゃんごろーよ。本物の悪者が悪さをしたら、ちょっと盗み食いどころの話ではないのじゃ! 本物の悪い奴らは、お船のみんなのお昼ごはんや晩ごはんを、まるっとそっくり奪ったりするような、本物の悪なのじゃ!」

「え!? ええ!?」

「お仕事を頑張ったクルーのみんなが、悪者のせいでごはん抜きになってしまうなんて、許せないことじゃ!」

「うん! ゆるしぇにゃい! しょんにゃの、ひろしゅぎりゅ!」

「そうじゃろう、そうじゃろう。じゃから、長老が、クルーみんなのごはんを守るために、悪者を捕まえる練習をさせてやっているのじゃ! すべては、みんなのごはんを守るためなのじゃ!」

「しょ、しょーゆーこちょ、らっちゃんら! ご、ごみぇんにぇ、ちょーろー。にゃんごろー、しょーちょは、しらじゅに、ちょーろーのこちょを……」

「気にするでない。分かってくれれば、それでいいのじゃ」

「ちょーろぉー!」


 にゃんごろーは、もふっとした長老のお腹にひしと抱き着いた。

 観劇していたキラキラ姉妹たちが、ポフポフと肉球拍手を送る。感激して涙を流し……たりはもちろん、していない。

 キララは長老の手腕に感心しての拍手喝さいで。

 キラリは仲直りおめでとうの気持ちを込めて、笑顔でお手々を叩いている。

 長老は、「してやったり」のお顔で笑いながら、にゃんごろーの頭をもしゃもしゃと優しく撫でてやった。


 長老の不正には厳しいようでいて、最後はチョロチョロのにゃんごろーなのだった。

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