第305話 今度こそ大成功!
子ネコーたちからの称賛を浴びて、ケインは得意満面だった。子ネコーの一人は、ケインに尊敬のまなざしを向けたのはほんの一瞬のことで、今では別の誰かに思いを馳せているが、気づいていないのか気にしていないのか、ケインは上機嫌なままだった。
タニアとカザンを除く子ネコー過激派たちは、ケインに嫉妬を向けるべきかミルゥを羨むべきか決めあぐねていたが、子ネコーたちが幸せそうだったり楽しそうだったりしているので、負の感情は捨て去り、今はただ可愛さに溺れることを選んだ。ちなみに、タニアは活動停止中であり、子ネコーが幸せならば子ネコーが親愛を向ける先が自分でなくてもかまわないカザンは、始終ホコホコ状態だった。
子ネコー(森の子ネコーを除く)からの「すごーい」祭りを存分に堪能してから、ケインは話を元に戻した。
船内警備のお話だ。
「さて、それでね! 警備のお仕事は、青猫号の外からやってきた悪い人を何とかすることだけじゃないんだ! 青猫号の中で、悪さを働くものからみんなの幸せを守るのも、僕らの大切なお仕事なんだ!」
「え! ええ!?」
「ほ、ほえ!? お、おふにぇのにゃかに、しょんにゃ、わりゅいひちょら!?」
「そ、それは、ほえほえですね」
話は微妙に急展開だ。子ネコーたちは、打てば響くような反応を返している。――――が、クロウは眉間に皺をよせ、軽く首を傾げた。内部に問題がある、などという話しは聞いたことがないし、どちらにせよ内部班の犯行なんて子ネコーに聞かせる話ではないだろうと思ったからだ。語り部が長老であったなら、にゃんごろーを揶揄うための茶番の一環だろうと思うのだが、画面の中のケインはキリリと顔を引き締めている。
どういうつもりで子ネコーたちにこんな話を聞かせているんだろう、とクロウの首の角度が深くなる。
「ちなみに、この問題が起こった時には、警備担当だけじゃなくて、すべての海猫クルーで、何とかするために頑張ることになるんだ!」
「なるほど!」
「みんにゃれ、ちきゃらをあわしぇちぇ……」
「悪者を捕まえるんですね」
「その通りだ! そして、その犯行とは!? 犯人の正体とは!?」
子ネコーたちは、すっかりケインの語りに引き込まれていた。今度はちゃんと、三人そろっている。ケインは真面目な顔で話を盛り上げていく。
調子に乗ったケインがうっかり内部事情をばらそうとしているのか、長老的に子ネコーたちを楽しませようとしているのか判断できず、クロウもドキドキしながら話の行末を見守っていた。
子ネコーたちは、固唾を呑んで窓内ケインを見上げ、続く言葉を待っている。
子ネコーたちが“答え”を待っていると知りながら、ケインはすぐに続きを語ろうとはせず、わざとらしく呼吸を整えている。
もったいぶっているのだ。焦らしているのだ。
子ネコーたちのお耳もお目目も、窓内ケインに釘付けだった。何一つ聞き逃すまいと、お耳を澄ませる子ネコーたち。場の空気も、研ぎ澄まされていく。
そうして、子ネコーたちの緊張を十分に高めてから、ケインは厳かに告げた。
「僕たち海猫クルーは、毎日戦っているんだ。長老さんの、盗み食いと」
「ほにゃあー!? みょー!? ちょーりょーはぁー!? にゃにをやっちぇるにょー!? みんにゃに、ごめーわきゅをかけちゃら、ラメれしょー! みょー! みょー! めっ! めっ! めーーーーっ!」
「……………………ぷっ。あははははははは! そういうことー!? あはははは!」
「ちょ、長老さんってば……。でも、長老さんらしい…………」
子ネコーたちは三者三葉の反応を見せた。
にゃんごろーは怒り心頭のお顔で振り返ると、長老へ向かって突進し、もふぁもふぁの長毛に包まれた長老のお腹をポカポカと叩いてお説教開始。
キララは、お腹を抱えて笑い転げた。
キラリは、困ったような顔をしながら面白がっている。
ミフネも、苦笑いを浮かべつつも、どこか楽しそうだ。
過激派たちは割愛。
そしてクロウは、「やられた」と思いながら笑いをこらえていた。
これまでケインは、話の途中で何かを企んでいるかのように長老みのある笑みを浮かべては、子ネコーたちの思いがけない行動により不発に終わってきた。なのに、真面目な顔で長老オチを持ってくるとは、完全に騙された。
偶然そうなったというわけではなく、最初からの仕掛けだったのかもしれない。
画面の向こうのケインは「してやったり」の長老顔で笑っていた。
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