第304話 それが、にゃんごろーですから!
予定通りなのか予定外なのかは不明だが、元々の進行及び説明役だったムラサキが一連の子ネコー遊戯により限界化してしまったことで、引継ぎらしい引き継ぎはなかったが、説明役は完全にケインへと移行した。
少し前からしゃしゃり出て来ていたせいもあって、子ネコーたちは何の疑問もなくスクリーンに映るケインの顔を見上げている。ムラサキが座っていた方の椅子の後ろに並んで、仲良く顔を上げている子ネコーたち。
首が疲れそうだな、と心配したクロウが手分けして子ネコーたちを抱き上げてやるべきか思案を始めたところで、それまで静かにしていた長老の声が響いた。
「それじゃあ、見づらいじゃろう。ちょっと、待っておれ。ほいっとな。よし、これでどうじゃ。ほれ、もうちょいと後ろに下がるとよい」
声に釣られて子ネコーたちが振り返る前に、ケインのお顔が大きくなった。長老が魔法を使って、ケインが映っているスクリーンのサイズを大きくしたのだ。ぱやぱや子ネコーたちは歓声を上げ、むしろ壁の方へ近づいた。パカンと大口を開け、首の角度を深くしている。キラリはお口パカンの後、チラチラと長老の方を振り向いていた。
ケインが映るスクリーンが展開されている壁の反対側の壁近くにいたはずの長老は、いつの間にか中央の大きな玉の傍に立っていた。
中央の玉を通じてスクリーンの操作を行ったのだろう。クロウ、ミフネ、キラリの三名は、そちらの方もいろいろと気になったのだが、追及する前にケインが話を始めてしまった。名残惜しいが、今は説明会の続きに集中することにした。
「じゃ、みんな! 楽な姿勢で聞いてねー! 海猫クルーのお仕事の続きをお話しするよー!」
コク、コク、コク、と三つのもふ頭が頷いた。その内の一つ、キラリはケインを見上げつつも、ちょうどいいアングルの場所を求めて前へ後ろへとちょこちょこ動き、一番首に負担がかからず、ケインの顔を見られる場所を探り当てた。
残りの二つは、そこが一番首に負担がかかる場所なのではという最前線から動こうとせず、わくわくとしたお顔でケインを見上げたままだ。
そこが、ぱやぱやにとってのベストポジションなのだろう。
ケインは、話をスタートした。
「さっき、キラリちゃんには、少しだけ話したんだけどね。青猫号の中を回っている海猫クルーのお仕事は、お船が壊れていないかを見て回ったり、壊れたり調子が悪いところがあれば修理したり、なんだけどね。他にも大事なお仕事があるんだ!」
「ほぅほぅ、ほほほぅ」
「ほぅ、ほほほぅ」
「ほ?」
にゃんごろーの相槌をキラリが真似た。その完成度の高さにキララはお目目を見開き、瞬いたが、そうした細やかな子ネコー事情にはお構いなしの(気づいていないだけともいう)ケインがドンドコ話を進めていったので、小さな「あら?」は話に流されていった。
クロウは「あー……」という顔をしたが、元より何かと進行が遅れがちな見学会なので、これくらい巻いていった方がいいのかも知れないとすぐに思い直した。
さて、話はズンドコ進んでいく。
「それはね! 青猫号の警備! 悪い人が船にやって来て、何か悪いことをしていないか、青猫号の中を歩き回って目を光らせているんだよ! 悪い人を見つけたら、捕まえたりもするんだよ!」
「なるほど! 大事なお仕事ね!」
「は、はい。大事です」
「ほほぅ? けーりのおしごちょ……」
「そう! 警備のお仕事! 警備専門の海猫クルーと、点検・修理専門の海猫クルーがいるんだけど、僕は両方出来るんだ! 若い頃は、空猫クルーの仕事を手伝ったりもしてたんだよ!」
ケインは窓の中で自慢そうに笑った。あまり嫌味な感じがしないのは、どこか表情が子供っぽいからだろう。
今も十分若く見えるけど…………と思ったのは、クロウとミフネだけで、子ネコーたちは素直に感心していた。特に、にゃんごろーは「ミルゥしゃんと、いっしょのおしごちょを……」と尊敬のまなざしでキラキラとケインを見上げている。
姉妹たちはケインの多才ぶりに感心していたが、にゃんごろーは一味違う関心の仕方をしていた。若かりし頃(見た目は今でも若いのだが)の話とは言え、海猫クルーでありながらミルゥと同じ空猫クルーの仕事もしていたというケイン。ミルゥ大好きにゃんごろーは、その多才ぶりにというよりは、ミルゥと同じ、というところだけに感じ入っているようだ。空猫クルーということはミルゥと同じお仕事だ――――と思ったら、もうミルゥのことしか考えられなくなってしまったのだろう。
それを言ったら、今現在ミルゥと一緒に働いている現役空猫クルーたちの方がすごいのではないかとクロウなんかは思うのだが、そこには思い至らないところが、実ににゃんごろーらしい。
クロウは、憮然とした眼差しを小さなもふもふ頭に注いだ。注ぎまくった。
現役空猫クルーである自分が、常日頃にゃんごろーから助手呼ばわりされ雑に扱われているのが納得できないと非難の眼差しをあびせまくった。
しかし、当の子ネコーは突き刺さりまくる視線に気づかない。
ミルゥのことを想っているのか、頬にお手々を当てて「にゃふにゃふ」と幸せそうに笑うばかりだった。
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