第303話 もふもふお遊戯終了しました

 魔法制御室の勤務に関わる青猫クルーにしか知らされていない、秘められた精霊情報がうっかりポロンと漏らされてしまうのでは、という期待と緊張と興奮で全身がブワッと鳥肌状態のクロウだったが、話題の方はあっさりと逸れていった。


「あ、そうそう! 船内を回る海猫クルーのお仕事は、船内魔法設備の点検・修理じゃなくて警備のお仕事もあるんだよ!」

「ほ、ほう?」


 ケインの危機管理能力がギリギリで働いたため、と少しでも感じられれば、「そりゃ、そうだよな」と諦めるとともにちょっと安心もしたと思う。

 けれど、残念ながら。ただの気まぐれというか思い付きというか、本人の飽きっぽくてとっ散らかった性格から来た話題転換のようだった。そのため、クルーとしては大丈夫じゃなかったかもしれない情報漏洩が避けられたことを喜ぶべきなのかもしれないが、がっかりの方が大きかった。

 精霊と聞いてお目目を輝かせていたキラリも、突然の話題転換に肩透かしを食らったようだ。しかし、続くケインの言葉を聞いて、小さな戸惑いは吹き飛んでいった。


「この話は、にゃんごろー君たちにも聞いて欲しいんだよね。というわけで、可愛いふたりのお遊戯会は、これにて終了!」


 ケインのやたら楽しそうな宣言と共に、クロウとケインの通信が途絶えた。クロウのブレスレットから生じていた窓はシュンッと掻き消え、子ネコーたちのおしくらまんじゅうを放送していたデカデカ窓は、二つに分かれて、船内の様子を映しだす。通常業務に戻ったのだ。


「にゃにゃ!? あー、なきゅにゃっちゃっちゃー」

「あら、残念。でも、楽しかったわね!」

「ねー!」

「あら? そう言えば、キラリは? はっ!? もしかして、わたしたち、キラリのことを押し出しちゃった? キラリは、ちゃんと遊べたの?」

「はわー! ほんちょら! ご、ごみぇんねぇ、キラリィ! ろーしよー! にゃんごろーたち、ちゃのしくにゃっにゃっにゃぅーん!」


 突然の終了を残念がりつつも、十分遊んだ楽しんだと満足顔で笑い合っていたぱやぱやたちは、キラリのお顔が窓内から消えていたことに今さらながらに気がついて、わちゃわちゃと大慌てでキラリに駆け寄った。


「ん、ふふ。だ、大丈夫、だよ。わたしは、ケインさんと、魔法のお話を、していたの。いろいろ、お話を聞けて、わ、わたしも、楽しかったから」

「そっかー。楽しかったなら、よかったー」

「しょっかー。ケインしゃんと、おはにゃししちぇちゃんらね。キラリら、しゃみしくにゃかっちゃにゃら、よきゃっちゃ」

「うん。大丈夫、だよ。こ、この後は、わたしたち、みんなに、聞いて欲しいお話が、あるんだって」

「わー! 何かしらー?」

「みんにゃれー! みんにゃれ、おはにゃし、きこー!」

「ん。そ、そうだね。みんなで、聞こう?」


 元より、弾き出されたわけではなく、話の方が気になったが故の自主退出だったキラリは、怒ってもいなければ寂しがってもいなかった。それでも、ふたりに心配してもらって、気遣ってもらえたことは素直に嬉しくて、なんだか面はゆい。

 テレテレのテレ顔で、キラリは自分も楽しかったから何の問題もなかったことをふたりに伝えた。ふたりは、キラリはキラリで楽しい時間を過ごしていたことを喜んでくれた。それが、また、嬉しい。

 だから、キラリは、精霊のお話があそこで終わってよかったな、と改めて思った。

 ケインが子ネコーみんなに聞いて欲しいと言ったのは、精霊の話ではなく、警備のお仕事のお話についてだ。

 でも、キラリはそれを聞いて、思ったのだ。


 精霊さんのお話を、キラリがひとりだけ聞いてしまうのは、よくない――――と。


 結果として、精霊の話そのものが流れてしまったわけではあるけれど。あのまま、成り行きのまま、キラリひとりだけで精霊の話を聞いたりしないで良かったなと思ったのだ。

 ケインには失礼だけれど、警備のお話よりもむしろ、精霊のお話こそ、子ネコーみんなで聞くべきだと思ったのだ。


 ――――そんなキラリの心の動きを察することが出来たのは、子ネコーみんなの様子に気を配り、子ネコーの個性を把握しているミフネとクロウだけだった。

 ミフネは微笑ましく目を細めていた。キラリだけでなく、キラリを案じたふたりの子ネコーも含めて、完全なる保護者目線で口元を緩めている。

 クロウもまた、口元をムズムズさせていた。子ネコー好きじゃなくても、なんだか癒される。むず痒い感情が湧き上がって来て、口元を刺激するのだ。

 気を落ち着けようと、クロウはペンを取り、中断していた見学会の記録を再開した。

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