第301話 長老スマイル
三つのお顔がもふもふと重なるように小さな窓を覗き込んだ。
クロウの元へと集った子ネコーたちは、ケインの話よりも、小さな窓に興味津々なのだ。魔法子ネコーのキラリも、魔法子ネコーだからこそ、魔法の窓が気になるようだ。
上からのアングルはネコー好きにはたまらない素晴らしい眺めだった。
とりわけネコー好きというわけではないクロウの口元も緩んでいる。ネコーが好きかどうかに関係なく、子ネコーらしい行動は普通に微笑ましかった。
もふもふ頭に邪魔されて、手元画面のケインの顔はほぼ見えていないが、玉上画面にもバッチリ映っているため、何の問題もなかった。そもそも、ケインのドヤ顔にもデレ顔にも興味はなかった。話さえ聞かせてもらえばいいのだ。
しかし、ケインから続きが語られる前に、ムラサキが騒ぎ出した。
「ちょ! ケイン先輩ばっかりズルイですよ! マグさん、こっちにもお願いします!」
「分かっとるわい! もう少しじゃ…………ほれ! どうじゃ!?」
「ひょおう!」
「…………は!?……………………はおう!?」
「むふふ! これは、永久保存版じゃな!」
マグじーじの掛け声と共に、マグじーじの正面の壁に、割と大き目な窓スクリーンがドドーンと現れて、そこにもふ、もふ、もふと可愛い三つのお顔がドアップで映し出されたのだ。それは、クロウのブレスレットを通じて、ケインの方の窓から見えている映像だった。
予想を超える愛らしさに、ムラサキが奇妙な叫び声を上げた。その声でタニアは我に返ったが、もふもふ天国映像に気づいて、再度彼方へと旅立っていく。
「んにゃ?」
「なあに?」
「どうしたんでしょう?」
騒がしい外野に気づいた子ネコーたちがお顔を上げた。窓スクリーンの中で寄り添っていた子ネコーたちのお顔がすこーし離れ、下から見上げるようなアングルに切り替わる。
「あー! にゃんごろーたちのおおきゃおら、まろにうちゅっちぇるよ!」
「あら? ホントね?」
「あ、もしかして。あれは、ケインさんから見えている窓の映像っていうことですか?」
「そうだよー。大正解!」
デカデカ窓に気を取られ、離れていったお顔が、また近づいて来た。クロウの手元窓からお顔を離すと、デカデカ窓に映らなくなると無言の内に察したのだ。ごっつん衝突事故が起こったが、窓に気を取られたままのゆっくり運転だったため、衝撃は然程でもなかったのだろう。お顔を近づけ、見上げたお顔を見上げている子ネコーたちから悲鳴の声は上がらなかった。
離れてからのごっつん事件に、人間たちは悶絶したり、目を細めたりしていた。
ムラサキとタニアに代わって一人で通常業務をこなしていたはずのマグじーじまで本業務を外れた時には呆れと心配が入り混じった顔をしていたクロウも、今は口元を押さえてプルプルしている。デカデカ窓の中で、押し合いへし合いしている薄っすらとお口を開けた見上げ顔がツボに入ってしまったようだ。
「えーと、それで。話を戻しますけれど、クロウさんが驚いていたのは、ケインさんが魔法制御室との通話を繋いだまま、クロウさんとも通話をしていることに対して…………なんですよね?」
「……そ、そう…………」
膠着している事態を動かしたのは、子ネコー耐性があり、キラキラ魔法雑貨店営業担当としてそれなりに魔法に興味があるミフネだった。クロウが息も絶え絶えに答えると、ミフネは子ネコーでもクロウでもなく、窓の中のケインに向かって話を先へ進めた。
「でも、それはクロウさんには出来ない。だから、キラリはその原因がブレスレットにあるのではないかと考えた。クロウさんが属する空猫クルーとケインさんが属する海猫クルーとで、性能の違うブレスレットを使っているのではないか、と」
「はい。でも、答えは違ったみたいです」
デカデカ窓からキラリのお顔が消えた。窓で遊ぶよりも、答えの方が気になったからだ。窓に夢中なようでいて、ちゃんと話にも耳を傾けていたのだ。
ぱやぱや子ネコーたちの方は、話には興味がないようで、広くなった窓内で陣取り合戦をしつつ、時折お手々をシャーッと流したりして引き続きお楽しみ中だ。たぶん、ミフネたちの声はお耳をすり抜けてしまっているのだろう。
クロウは笑いをこらえてプルプルしつつ、話には耳を傾けていたが、記録を取るための手は完全に止まっていた。
「うーん……。ブレスレットのせいじゃないとすると…………」
「ふっふっふーん。ヒントをあげようか?」
キラリはもふっと腕を組み、再びお題にチャレンジしている。先ほどまで話し手を務めていたミフネはキラリの回答を待つことにしたらしく、ここで口を噤んだ。
代わりに口を挟んだのは、窓の向こうのケインだった。
大きな子ネコースクリーン出現のおかげで、小さく感じる窓の中で、ケインは本日二度目の長老スマイルを浮かべていた。
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