第300話 クロウのびっくり解説
ブレスレットをしている方の腕を持ち上げ、クロウは目を白黒させていた。突然声が聞こえてきたブレスレットの上には、手のひらサイズの窓が浮かんでいる。
クロウの側から見るとケインの顔が写っているのだが、裏側からは水色の板にしか見えない。けれど、子ネコーたちは、何かを察したようだった。
「あ! もしかしちぇ!」
「こっちから見たら何も映ってないけれど!」
「クロウさんの方から見たら、玉の上の窓と同じように、お顔が映っているのかも」
子ネコーたちは、わらわらとクロウの傍に集まり足元に纏わりつく。クロウは苦笑いを浮かべると、しゃがみ込んでよく見えるようにしてやった。
右からはにゃんごろーが、左からは顔を並べた姉妹が画面をのぞき込んでくる。
とても微笑ましく、とある層の人々からしたら、ギリギリと歯ぎしりをしてしまいそうなほどに羨ましい光景だった。
「おきゃいもにょにちゅかうらけら、にゃいんらねぇ」
「えー? にゃんごろーったら、今までお船にいて、気づかなかったの?」
「うん。きじゅかにゃかっちゃー……」
「ふふ。通信機能…………お話しするのは、お仕事に使う専用なのかも。にゃんごろーと一緒の時は、お仕事がお休みの時だから、使ったことがない、とかかな?」
「しょーにゃの?」
にゃんごろーが、にゃんごろーらしい感想をもらすと姉妹たちはくふくふと笑った。キラリが自分なりの見解を述べると、にゃんごろーはお顔をクリッとクロウへ向ける。
「あー、まあ、そうだな? 任務中じゃなくても連絡が来ることはあるが、一応話を聞かれないように、離れた場所で話をするようにしてはいるから、気づかなかったのかも、な?」
「あー、しょーらっちゃんらー」
にゃんごろーは「なるほど」と頷いているが、姉妹たちはクロウの微妙に歯切れが悪い回答で何となく察した。そういう事情もあるにはあるが、そこまで徹底しているわけではなく、単ににゃんごろーがぱやぱやと見逃していただけなのだろうと。
きっと何か食べ物のことに気を取られてスルーしちゃったのね……という姉妹たちの予想は大正解で、クロウが真実をつまびらかにしなかったのは、お豆腐先生のメンツを守るためではなく、更なる脱線を回避しようとしたためだ。
「あ、ところで、クロウさんはさっき、何をあんなに驚いていたんですか?」
「あー! そう言えばー! 突然声がしたからのびっくりとは、なんか違ったわよね?」
クロウの配慮が実を結んでか、そうはいってもプチ脱線していた話が元へと舞い戻ってきた。クロウは功労者である姉妹たちに、びっくりの解説講義を始めることにした。
ちなみに、これまでの間にどこからも横やりもしくは修正が入らなかったのは、お察しの通り、子ネコーは何をしていても可愛いからである。つまり、鑑賞に徹してしまったからである。
「ああ、うん。つまり、だ。こうやって、今みたいにケインさんを窓に呼び出したまま、別のクルーと話をすることは、俺には出来ないんだよ。だから、なんでだってなって、ちょっと、びっくりしたっていうか……」
「ほにゃ?」
「そうなの?」
「あ、つまり。空猫クルーと海猫クルーとで、ブレスレットの性能……仕組み……使える機能……出来ることが違うってこと、なのかな?」
びっくりしたことが今さら恥ずかしくなってきたのか、クロウはごにょごにょと語尾を濁した。少し頬が赤くなっている。いずれにせよ、ぱやぱや子ネコーたちには少々お話が難しかったようだ。ふたりは仲良く首を傾げている。クロウの両脇で、クロウの方へ向けて首を傾げている。大変に愛らしい。誰かが息を呑む音は、キラリの少し興奮した声が掻き消した。
クロウの講義内容を正しく理解したばかりか、ぱやぱやに配慮した自説までご披露しているのだから大したものだ。
「お? なかなか、いい着眼点だね? だけど、不正解! ブレスレットは海・空どっちも同じものだよ!」
キラリの考察に答えてくれたのは、しばらく沈黙を保っていた窓の向こうのあの人。
海猫クルーのケインだった。
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