第299話 魔法のブレスはクルーの証
繋がりを確認したところで、キラキラコンビとの自己紹介が始まった。
「やあ。魔法雑貨店の子ネコーちゃんたちとは、初めましてだね。僕はケイン。青猫クルーの魔法制御担当だけれど、魔法に関係する仕事は一通りこなせるから、遊撃隊っていうか、うーん、青猫号の魔法の何でも屋さんといったところかな? よろしくね」
「初めまして! キラキラ魔法雑貨店のキララです! よろしくお願いします!」
「は、初め、まして。キラリ、です」
「にゃんごろーです! よろしゅーおねらいしましゅ!」
「あははー。にゃんごろー君も今日はよろしくね」
キラキラと眩しいクシャクシャの短い金髪。丸い眼鏡。自己主張の激しいソバカス。窓の向こうで屈託のない笑顔を見せるケインはムラサキやクロウと同じくらいの年齢に見えるが、実はタニアやカザンよりも年上だ。
キラキラ魔法雑貨店を利用したことはないようで、人見知りのキラリだけでなく看板娘ネコーのキララとも初対面のようだ。
ケインは長老と仲がいいため、よくネコー部屋に遊びに来る。だから、にゃんごろーとも顔見知りだ。初めましてではないけれど、今日は見学会の講師側と見学者側という立場なので、にゃんごろーはきちんとご挨拶をした。親しき中にも礼儀ありなのだ。
ご挨拶が終わったところで、只今の進行役であるムラサキが話のかじ取り役に返り咲いた。
「ふっふっふっー。すごいでしょ! この玉を操って、窓スクリーンを通じて、お船の中にいるクルーたちとお話が出来ちゃうんだよ!」
「ほぉーお」
「すごーい!」
「あ、あの。ケインさんの方からも、わたしたちのことが、見えているんですか? それとも、向こう側は、声だけなんですか? 見えているとしたら、どういう風に?」
見学会の説明塔よりはただのお船自慢のようになっていたが、ぱやぱや系子ネコーたちは素直に感心している。だが、ひと味違う魔法子ネコーは、ここでも味の違いというヤツを見せつけてきた。
空猫クルーとは言えクルーであるクロウは、その辺のことは把握しているが、ムラサキはどう説明するのだろうと関心を寄せた。
ムラサキは「ふふーん」と笑うと、腰をかがめて、子ネコーたちに左腕を向けて手首を見せつけた。正確には、手首に装着された銀入りのブレスレットを見せびらかした。
「じゃじゃーん! このブレスレットはねー、お洒落のためじゃないんだよ! これはね、青猫号のクルーの証なんだ!」
「にゃんごろー、しっちぇるぅー! にんれんのクルーは、みんにゃ、おててにちゅけちぇる! これれ、おきゃいもにょら、れきりゅ! にゃんごろー、りはんきれ、ジューシュをかっちぇもらっちゃよ!」
「えー? 便利ぃー」
「え、と…………、自販機で、お買い物? そ、そんな機能まで…………」
「あ、応、補足しておくけと、ブレスレットが買い物に使えるのは、青猫号の中のお店だけだからねー? ちなみに、青猫号内のお店は、もちろん現金も取り扱っているよ」
にゃんごろーは、「はいはい」とお手々を上げて、説明役を搔っ攫った。にゃんごろー視点によるお豆腐心が滲んだ拙い説明だが、ムラサキの説明もどっこいなところがあるな、とクロウは失礼なことを考えた。
キラキラ姉妹たちは、にゃんごろー語にも慣れてきたようで、クロウが通訳しなくても、ちゃんと意味が通じたようだった。
ただし、色々と足りないところがある上に、可愛い乱入に目を細めているムラサキからは補足説明がなかったため、窓の向こうのケインから追加の説明が飛んで来た。
ケインと同じことを考えて出遅れたクロウは、出遅れたおかげで余計なおせっかいをせずに済んだと胸を撫でおろした。発言が被ったところで、ケインは気にしなさそうではあるが、今回は海猫クルーが主催の見学会なのだ。しかも、ケインは年上だ。手伝いを頼まれているとはいえ、書記役のクロウが海猫クルーのケインを差し置いてしゃしゃり出るのは良くないな、と反省していたら、クロウの手元からケインの声が聞こえてきた。
「やっほー、クロウ! 聞こえてるー?」
「え? え!? うわ、なんで!?」
子ネコーたちの視線がクロウに集まる。突然のことにびっくりはしているが、「こっちからも声が聞こえてきたー」と歓声を上げ、はしゃいでいる。
なぜか、ブレスレットの持ち主であり、使用も理解しているはずのクロウが一番驚いていた。顔の高さまで持ち上げられた左手首には銀色のブレスレットがはめられている。ブレスレットの上には、手のひらサイズの窓が生まれていた。クロウの視線は手元窓と玉上窓を行ったり来たりで忙しない。
活動停止中のタニアを除く海猫クルーたちは、クロウの反応にニマニマしていた。ミフネはそんな両者の様子を不思議がり、首を傾げている。カザンは子ネコーたちしか見ていなかった。
そして、窓スクリーンの向こうでは。
ケインもまた、人の悪い笑みを浮かべていた。
それは、長老そっくりの顔だった。
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