第297話 お船のお医者さん
クロウは呆れつつも心配していた。
にゃんごろーとキララは、いい。話の内容がたいしたことのないものだとしても、ムラサキがそれっぽい抑揚をつけて勢いのあるトークを繰り広げれば、それだけで肉球拍手喝さいを送ってくれるだろうと予想できるからだ。
問題はキラリだった。もったいぶって盛り上げたあげくに、自分でも想像がつくようなつまらない内容だったりしたら、「なんだ、そんなことか」とがっかりするのではないだろうか。にゃんごろーとキララが喜んでいれば、「あ、これは、ふたりへのサービスなんだな」とお姉さん目線で割り切り、流してくれるかもしれないが、そうはいっても内心ではがっかりするのではなかろうか。
先輩クルーであるタニアは、どう考えているのだろうと、クロウは調子に乗っているムラサキから隣のタニアへ視線を移し、目を眇めると、そのままそっと明後日の方向へ逸らした。
タニアは、まるで恋する乙女のように頬を紅潮させ、煌めく瞳で子ネコーたちを見つめていた。その領域で留まっていてくれていれば、クロウはうっかり見とれてしまったかもしれない。しかし、タニアは恋する乙女の領域をとっくに踏み越えてしまっていた。具体的に言うと、涎を垂らす一歩手前の顔をしていた。身の内で滾り渦巻くソレを子ネコーに向かって迸らせるのではなく、身の内に閉じ込めその波に溺れる。ミルゥたちとはまた一線を画する子ネコー過激派の姿を見ていられず、クロウは視線を外しただけでなく最初から何も見なかったことにした。
いずれにせよ、後輩クルーのお仕事説明のやり方に口出しできる状態でないことだけは確かだった。
クロウは諦めて成り行きを見守ることにした。恥ずかしがり屋とはいえ、魔法絡みのことならばグイグイ行けるようではあるし、もったいぶり話が物足りなかったら、探求心のままに自ら切り込んでいくだろう、と思い直した。それに、キラリが自分で行けないようなら、クロウが援護射撃をしてやればいいのだ。
ひっそりと決意と共に自己完結したクロウを余所に、ムラサキは絶好調でお船の治療話を繰り広げた。
「中にはねー、この玉からじゃ見つけられなかったり、治せない故障……いやいや、お船の病気もあるんだよ! でも、安心して! 海猫クルーのお仕事は、この玉を使ってお船の中を見るだけじゃないんだ! 直接、お船の中をパトロールしているクルーもいるんだよ!」
「にゃんごろー、しっちぇるぅー! ちゃまに、おいきあいしゅるよ!」
「なるほどー! 玉から調べるクルーと、お船の中を見て回っているクルーがいるのね! わたしもご挨拶してみたーい!」
「ふむふむ。この玉で、すべてをコントロールできるわけではないということですね。なるほど」
心配には及ばなかったようだ。ムラサキの話はキラリの予想を超えるものではなかったが、キラリには不満も落胆もなかった。予想の裏付けが取れたキラリは「やはり、そうだったか」のお顔で頷いている。求めているのは、びっくり仰天の新情報だけではない。青猫号の魔法について深く知るためには、なんてことはない事実についても確証を持って積み上げ土台を整えていくことが大事なのだ――――という魔法子ネコーの神髄を見せつけられた気がして、クロウは自分を恥じた。キラリのことを案じたのも、元をただせばキラリにかこつけて自分が自分の好奇心を満足させたかったからなのではないかと反省したのだ。
しかし、それにしてもパヤパヤ子ネコーたちとの理解度落差が激しいかった。繰り出される質問も零れ落ちる感想も、ひと味もふた味も違いすぎる。
子ネコーたちに見上げられて浮かれているムラサキは、あまりそのことに配慮することなく、というかそもそもちゃんと気づいているのかどうかも怪しいまま、ウキウキと話を続けた。
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