第296話 本線に戻りました
クロウが起こした脱線は、すぐに軌道修正された。
子ネコー主導の脱線だったならば、きっとどこまでも突っ走ってしまったことだろう。でも今回は、線路切り替えの犯人がクロウだったことと、外れた線路をむしろ率先して走ったムラサキの熱いネコー語りが狂信者的な意味ではクロウに響かなかったこともあって、本線と並行していた列車は割とあっさり本線に戻ってきたのだ。
本線への切り替えを行ったのは、我に返ったクロウだった。
「あ、悪い。話の腰を折ったな。後で聞いてもいい事だったよな。すまん、えーと、魔法制御室は青猫号の暮らしをイイ感じにするための部屋で、その具体例を話したところまでだったよな?」
「あ、そうそう、そうだったね! うん、それで、ここはね! 青猫号の中の魔法が、ちゃんとイイ感じに働いているかを見張る……ううん、見守るためのお部屋なんだよ! あそこに展開されているスクリーン……うーんと、いっぱい開いている窓みたいなヤツで青猫号の中や外の様子を見ることが出来るんだよ!」
ムラサキの性格をよく知るクロウは、きっとどこまで話したかを忘れているだろうと、気を利かせつつ話を本線に誘導する。ムラサキは路線変更をしていた自覚がないまま、本線への帰還を果たした。
ムラサキはクロウを視界から追い出し、見上げて来る子ネコーたちだけで視界を一杯にしてから滔々と語り出した。
相変わらず、一番分かっていなさそうなにゃんごろーに標準を当てた説明となっているが、キラキラ組からの苦情も質問もなかったため、滔々語りはなおも続いた、
「魔法の調子が悪いところはね、私たちがスク……窓をちゃんと目で見ないと見つけられないものもあるんだけど、窓の方で勝手に見つけてくれるものもあるんだよ! 窓が見つけてくれた時は、見つけた窓の縁がピカピカ光って、あと『にゃー、にゃー』っていう鳴き声もして、私たちに見つけましたってお知らせしてくれるんだよ!」
「ほえー……」
「へええ。窓、すごーい!」
「なるほど、お船が眠っているだけだからこそ、ということだよね? そうか、本当にお船はまだ、生きているんだ……」
にゃんごろーとキララは、子ネコーらしく素直に感心しているが、魔法子ネコー☆キラリは一味違う感想をひっそりと呟いている。耳ざとく拾い上げたクロウは、出来たら後で個別インタビューをさせて欲しい、と希望を抱いた。鳴き声については、子ネコーたちも気にしていないようなのでスルーした。
「それで、問題が発生……んー、調子の悪いところを見つけた時は、この窓を通じて、このお部屋から治療……は通じるのかな、えーと、治せちゃったりもするんだよ!」
「えー!? しゅろーい! まろは、おいしゃしゃんにも、なれるんらー!」
「その場所まで行かなくてもいいんだぁー。それは、すごいわね」
「遠隔魔法操作ってことですね。ふわぁ……。お船の故障は困るけど、直しているところを見てみたい……」
魔法設備の故障を体の不具合に例えたムラサキの話を、にゃんごろーはその通りに受け止めていたが、キラリは正しく変換していた。キラリにだけ、後で上級者向け講習会を開いてやって欲しいとクロウは思った。そして、出来れば自分も参加させてほしいとも思った。
講師ムラサキは、上級者キラリではなく、にゃんごろーの子ネコー発言を取り上げた。
「ふっふっふっ。にゃんごろー君! 窓は見つけて教えてくれるだけで、お医者さんにはなれないのだよ! 窓を通じて故障……悪いところを治す、お船専門のお医者さんは、私たち海猫クルーなのさ!」
「ええー!? ムラサキしゃんとタニアしゃんは、おふねのおいしゃしゃんにゃんらー! しゅろいんらねぇ」
「ふむふむ。海猫クルーのみなさんは、お船のお医者さんでもある、ということね!」
「あの、お船の故障……具合が悪いところは、全部この窓から修理……治療……治せるんですか? そ、それとも?」
ぽやぽや子ネコーと魔法オンチ子ネコーから称賛を浴びて気持ち良くなっていたムラサキは、自分も子ネコーなのに子ネコーに配慮した上級者子ネコーからの質問に「お?」という顔をしてから、パヤッと破顔した。
「うんうん、いい質問だねー! それでは、説明しよう! お船のこしょ……にゃ、お船が具合悪くなっちゃった時はー、大体はここから、どんな感じか分かるしー、この玉を通じて治しちゃうことが出来ます! なんだけどー…………」
ここまで来て、ムラサキはもったいぶった。
長老みのあるいたずらな笑みを浮かべて腰をかがめ、子ネコーたちのお顔の前で人差し指をチッチッチッと揺らす。
クロウは呆れた顔をした。
そこまでもったいぶるような話ではないと知っているからだ。
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