第293話 不思議な玉でお仕事中
三にんの子ネコーたちは、不思議な玉を見上げながら、それぞれ空想にふけっていた。
にゃんごろーは、玉の中と魔法の通路の不思議な空間が魔法の力が繋がっていて、玉の中にあの子のお顔が生首状態でバーンと現れて話しかけてくるところを想像していた。
キララは、動く空模様のアクセサリーとか悪くないわね、などとキラキラ魔法雑貨店の看板娘ネコーらしく新商品に思いを馳せていた。
キラリは、あの玉で魔法石を作ったらどうなるのだろう、そもそもあの玉はどうやって作られたのだろうかと職人魂をフル稼働していた。
子ネコーたちは、それぞれがそれぞれに不思議な玉への思いを巡らせる。にゃんごろー以外は、マグじーじの話の内容すら関係なく、自信の興味の方向へ思考を走らせている。
当のマグじーじは、この一時ばかりは子ネコーたちのことを忘れて、不思議な玉を撫でながらしんみりと物思いにふけっている。閉じた壁の前に立つ長老も同じだ。長老が撫でているのは、玉はではなく自信の腹毛だが。ついさきほど、ほんの束の間とは言え、懐かしい友達の姿を目にしたことが影響しているのだろう。しんみりと中断した見学会は、しばらく再開しそうもない。
子ネコーたちも大人しくしているなら仕方がないか、とクロウは速やかな再開を諦めたが、諦めきれない者たちがいた。
魔法制御室で仕事をしていた、二人の女性クルーだ。
二人は、壁際の椅子に座って仕事をしていたのだが――――。
「ちょっと、マグさん! しんみりしている暇があったら、私たちのこと、ちゃんとキララちゃんたちに紹介してくださいよ!」
「というか、先に紹介をして、後の説明を私たちに託してからにしれくれませんか?」
特に合図を交わしたわけでもないのに、まるで示し合わせたかのようなタイミングで、二人はそろって、くるりと椅子ごと回転してこちらを向くと、勢いよく立ち上がった。
一人は、ワッと捲し立て、もう一人は静かに微笑んでいる。
部屋内にいるクルーは二人だけだが、椅子は全部で五つあった。丸い部屋の壁際に、中央の台座&玉よりも小さめのセットが等間隔で五つ配置されていて、その手前に背もたれ付きの回転椅子が設置されているのだ。色は水色。椅子そのものは床に接続されていて、腰掛け部分のみが回転する仕組みになっていた。
長老のいる出入り口部分が、セットが形成する五角形の底の部分となっていた。そして、長老の正面、中央の台座横に立つマグじーじの背後のセットが、五角形の頂点となる。二人の女性は、頂点の両脇のセットで椅子に座って仕事をしていた。二人とも、背中に青猫の絵が描かれた水色のジャケットを着用している。青猫号クルーの制服だ。見学会司会のマグじーじと記録係として参加しているクロウも同じジャケットを着ている。本日は休暇のはずのカザンも、なぜか制服を着用していた。本日の一番のお客様は子ネコーたちなので、休暇中の身とは言え、もしもの時はスタッフとして手伝う心づもりなのだろうと、特に誰も指摘はしなかった。
それはさておき、最高責任者であるはずのマグじーじに対して、二人の女性クルーは随分と遠慮のない物言いで詰め寄っていた。同じ海猫クルーだからというのもあるのだろうが、それにしても随分と気安い。魔獣退治が専門で危険な現場に赴くことが多い空猫クルーに比べて、海猫クルーは上下関係が緩いな、とは以前から感じていたことだが、クロウはあらためて実感した。
まあ、おそらく。彼らはみなネコー好き同志であり、今回の案件が子ネコー絡みであるからこその緩さがあるのだろう、ネコーが絡むと何事も緩くなりがちだからな、とクロウは自分を納得させた。
それよりも、今は。魔法制御室にクルーは二人しかいないのに、二人そろって仕事を放り出して大丈夫なのか、という事の方が問題で心配だった。
二人が玉仕事から手を放しても、天井と壁に展開されている数々のスクリーンに映し出された映像はどんどん切り替わっているので、付きっ切りで見張っていなくても大丈夫なのかもしれないが、やはり気になる。
(青猫号の心臓部とか言う割には、ゆっるい仕事ぶりだよな…………)
その辺りのことも含めて、魔法制御室での海猫クルーの仕事について、ぜひ詳しくお聞かせ願いたいものだとクロウはペンを握りしめる。
当の現場では、賑やかに姦しく、女性クルー二人が勝手に自己紹介を始めたところだった。
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