第292話 お空を玉に閉じ込めて
マグじーじの呪文で、魔法の通路の先に現れたドーム型のお部屋の中へ子ネコーたちは歓声とともに飛び込んでいった。
乳白色の床。まあるくひとつながりの天井と壁は鮮やかなスカイブルー。
濃密だけれど清廉な気配に、突入した子ネコーたちはプルッと身を震わせた。しかし、そのお目目に畏れの色はない。子ネコーたちのお目目は、どのお目目もキランキランに輝いて、天井と壁に展開している大小さまざまな窓に注がれていた。
「しゅろーい……。まろら、いっぴゃいありゅ。まほーのまろら……。おしょちょらけらなくちぇ、おふねのなかみょ、みえりゅ……」
「四角い窓と、丸い窓とー。映っている景色も、ちょっとずつ、変わってる?」
「はわぁー……。これが、古代魔法の大事なお部屋……。魔法の通路も、初めての魔法の感じがしたけど、ここは、ここで、なんか、すごい……。古代魔法の、息吹……?」
子ネコーらしく感動している賑やか系子ネコーがふたりと、ひと味違う感嘆の声を上げる魔法オタク系子ネコーがひとり。「ほわぁ」とお口を開けたままの子ネコーたちを、マグじーじが追い越していった。マグじーじは、お部屋の真ん中にある、大きな丸い玉が載ったっている台座の脇に立ち、みんなを振り返る。ちょうど、後続のメンバー全員がドームの中に移動し終えたタイミングだった。マグじーじは、ちゃちゃっとお手々を翳して出入り口を閉じる長老の背中を見守る。シュンッと出入り口が閉じて、長老が部屋の中へと向き直った。ふたりは、腐れ縁同士の目配せを交わし合う。
それから、マグじーじは咳ばらいをして注目を集めた。
「おほん。みなのもの、魔法制御室へようこそ、なのじゃ」
子ネコーたちはパタパタとマグじーじの傍に集まり、「こちらこそ、お招きありがとう」のお辞儀をした。デロリと緩んだ頬を慌てて引き締め、マグじーじは説明を続ける。
「ここ、魔法制御室は、青猫号の心臓部…………あー、青猫号の中で一番大事なお部屋なんじゃ。青猫号の中の魔法の、要となるお部屋……。青猫号そのものである精霊さんの、大事なお仕事の部屋でもあるのじゃ」
マグじーじはそう言って、脇にある台座の上の玉にペタリと手を当てた。
床と同じ乳白色の、マグじーじの腰のあたりまである台座の上に載っている、人間の大人が一抱えできそうなくらいの玉。
とても、不思議な玉だった。
水晶玉の中に空を閉じ込めたみたいな玉。
魔法制御室の天井と壁は人工的なスカイブルーだが、玉の中の青は本物の空のようだった。おまけに、薄っすらと白いものが棚引いている。雲にしか見えない。
水晶玉の中に、どこかの空の様子を映しているのか。
それとも、本当にどこかのお空を切り抜いて来て水晶玉の中に閉じ込めたのか。
どちらとも判別がつかない、そんな不思議な玉だった。
マグじーじは、優しい手つきで玉を撫でている。玉を見つめる瞳からは、親愛が読み取れた。
言葉にならない何かを感じ取り、にゃんごろーは尋ねた。
「このちゃまれ、ふ……しぇーれーしゃんちょ、おはにゃしら、れきりゅの?」
「…………うむ。分かるかの? そうじゃ、今は、眠っているから、無理なんじゃがな。精霊さんが眠りにつく前は、ここが精霊さんの特等席だったんじゃ。精霊さんに頼みたいことがある時は、この玉を通じてお願いをしたんじゃ」
不思議さんと言いかけて、にゃんごろーは精霊さんに言い換えた。マグじーじは、精霊さんと言っていた。ならば、にゃんごろーもそれに合わせようと思ったのだ。それは、この部屋の中に、海猫クルーが二人いることに気づいていたからでもあった。不思議さんと精霊さんが同じ存在であることを、内緒の約束を知っている人以外には知られない方がいいと、考えたのではなく感じたのだ。不思議さんのことは、子ネコー同士の内緒話にしておきたかったという願望も、ちょっぴり…………いや、こちらの方が本当の理由だったかもしれない。
マグじーじは、にゃんごろーの言い直しには気づかずに、不思議な玉と精霊の関係をしみじみと語った。在りし日のことを、思い出しているのだろう。子ネコーにばかり注がれていた視線は、不思議な玉に向けられている。かといって、玉そのものを見ているのではなく遠い何処かを見つめているのだと、子ネコーたちにも分かった。
空気の読める子ネコーたちは、不思議な玉と精霊の関係に興味を惹かれつつも、マグじーじを質問攻めにすることはせず、マグじーじから聞いたばかりの話を思い返し、それぞれがそれぞれの方向性へ思いを馳せるのだった。
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