第283話 不思議な気まぐれ
長老は、にゃんごろーの命尻尾をブンブンと振り回しながら、しみじみとした口調で何やら語り出した。
「長老は、常々考えておったのじゃ。魔法の通路は、空の中にいるようじゃとみんなは言う。しかし、長老は海の中というのも、いいなと思うのじゃ」
「ほぅほぅ」
「うぅん?」
「はい……?」
魔法の通路が気まぐれだという理由を教えてもらえるのかと思ったら、よく分からない前置きが始まった。しかも、ふざけているわけではなく、真面目に話しているようだ。ここから、どう話が繋がっていくのだろうか?
長老慣れしている子ネコーは長老にお尻を向けたまま素直にお耳を傾けているが、姉妹二人は不思議そうに首を傾げた。
長老は遠い昔の恋を思い出しているかのように熱を込めた声で語り続ける。
「海中の通路を、お魚の骨が泳いでいくのじゃ。後を追いかけて行くと、そのお魚の身でこしらえたお料理が長老を待っているのじゃ!」
「えええー!? いいにゃー、ちょーろー! ろんにゃ、おりょうりらっちゃの? ろんなおあり? おいしかっちゃ?」
「ええー? 気まぐれがどこに行ったのかは謎だけど、それが、長老さんが体験した不思議ってことー?」
「い、いいいいい、いろんな種類の不思議があるってことなのかな? あ、だ、だから、気まぐれってこと……?」
「なんか、絵本に出てきそうな話だなー。本当に食べられる料理だったんですか?」
「ちなみに、その魚の種類とか、覚えていらっしゃいますか?」
長老の不思議体験告白に、外野はワッと盛り上がった。クロウとミフネも加わって、長老を質問攻めにする。
長老は、終わった恋を偲ぶかのようにため息を吐いて、こう言った。
「………………そうなったらいいなー、とずっと考えておるのじゃが、未だに夢は叶わぬままなのじゃ。にゃんごろーは、最初の一回で不思議に出会えたというのにのぅ。長老は、何度も魔法の通路に入ったことがあるのに、一度も骨が導くお料理に出会えていないのじゃ。本当に、魔法の通路は気まぐれなのじゃ」
「ちょーろー、げんきらしちぇ! うみら、らめれも、おしょらら、ありゅよ! おしゃかにゃら、らめにゃら、とりしゃんら、いりゅれしょ! とりしゃんのほねら、ちょんれきちぇ、ちょりにきゅのおりょうりのちょころに、ちゅれちぇっちぇくれりゅきゃも!」
「ふむ? 海がダメなら、空がある。お魚がダメなら、鳥がいるとな? 通路を飛んでいく鳥の骨に、鶏肉のお料理へ導かれるというのも、確かに悪くないのぅ。いいや、ここは、欲張りにじゃ! 海と空の共演! 魚料理と鶏肉料理の饗宴というのも悪くないのぅ!」
「くらものにょ、ちゃねら、ころらっちぇくるにょも、しゅちぇきら、にゃーい?」
「果物の種とな? なるほど、デザートも大事じゃな! 良い考えじゃ! でかしたぞ! にゃんごろーよ!」
「にゃふふふふ!」
にゃんごろーは、しょんぼりと肩を落とした長老を励まそうと、グルンと尻尾を巻きつけて振り返り、話をお豆腐方面に脱線させた。食いしん坊な長老は、脱線したお話に大喜びで飛び乗った。お豆腐方面へと、話を加速させていく。お豆腐加速に比例して、森のネコーズの興奮も加速していった。
反対に、街のキラキラネコーズは、すっかり興奮がさめていた。
「なんだー。ほんとうにあった不思議な話じゃなくて、長老さんの願望というか、妄想かー」
「うーん。つ、つまり、にゃんごろーのお手々がトップンしちゃったことが、た、たまたま起こった、ふ、不思議な、き、気まぐれだったって、こと? なの、かな?」
キララは、あっさりと興味を失くし、キラリは腕組みをして“不思議な気まぐれ”考察を始める。
マグじーじとカザンは、盛り上がる森のネコーズと冷静なキラキラネコーズの対比に、分かりやすく、または分かりにくく、心を射抜かれていた。
そして、うっかり長老の戯言にのせられてしまったクロウとミフネは、気まずそうに押し黙るのだった。
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