第279話 シュワシュワ・ダンス♪
一連の茶番劇を終え、見学会御一行様は、ついに魔法の通路への突入を果たした。
先頭のマグじーじをにゃんごろーが追いかけ、キラキラ姉妹がその後に続く。ミフネ、カザン、クロウの順でゆっくりとした足取りで境界をくぐり、殿は長老だった。
ついにようやく始まった見学会……のはずなのだが。
魔法の通路の中では、なぜか子ネコーのダンスショーが開催される運びとなった。ちなみに、予想はしていたが予定にはない演目だ。
長らくお待たせの魔法の通路内部は、濃密な魔法の気配に満ちた場所だった。元々、青猫号自体が魔法の息吹に溢れている場所なのだが、魔法の通路内に満ちる魔力はその比ではない。
魔法に不慣れな者にとっては、纏わりつくような息苦しさを感じるそれは、ネコーにとっては、とてつもなく心地よいものだった。シュワシュワと弾ける炭酸のぬるま湯に浸かっているかのような気持ちよさなのだ。シュワシュワに煽られて、気分も高揚してくる。高揚感のあまり、どこまでも走り出していきそうになる。
――――――――そんなわけで。
すっかり煽られてしまったにゃんごろーは、逸る気持ちを発散させるべく踊り出してしまったというわけだ。
それでも、前回と同じ失敗はしなかった。初めての見学の時は、気持ちが昂るあまり、通路に入ってすぐの場所で踊り出してしまったため、後続の人たちが通路内に入れず渋滞を起こしてしまい、長老に軽く怒られてしまったのだ。
今回は、先導役のマグじーじのところまで、もふもふトットコと駆け寄ってから、踊り出した。マグじーじは、ちゃんとみんなが通路に入り切る位置まで進んでから立ち止まっていたため、最後の長老まで通路の中に入り切ることが出来た。
それは、前回の失敗を踏まえて…………というよりは、本日のゲストであるキラキラ姉妹たちにも心地よい感動を味わってほしいという気持ちからの行動だった。その証拠に、マグじーじのいる通路奥まで侵入したにゃんごろーは、チラッと後ろを振り返り、姉妹ふたりがついて来ていることをちゃんと確かめてから、歌い踊り始めたのだ。
歌と踊りが始まってからは、姉妹のことを気にかける余裕はなかった。全身をシュワシュワされて弾けてしまった喜びを歌にのせ、踊り狂う。
「シュワッ・シュワッ・シュワッ♪ ふっふぅー♪ シュワワワ・アワワワ・ふっふっふぅー♪ おしょらの・にゃーきゃの・シュワシュワおふりょ♪ と・ろ・きぇ・るぅ♪ き・も・ち・いー♪ にゃ・にゃ・にゃ・にゃ・にゃ♪ はっふぅーん♪」
クルクルと回転しては、スターンと小気味よいジャンプを決めるにゃんごろー。ステップも軽やかだ。
にゃんごろーに続いて、ワクワクしつつもお行儀よく通路へ足を踏み入れた姉妹たちは、中に入ると同時に「にゃうっ!」と飛び上がり、にゃんごろーの後を追いかけて駆け出した。ふたりも、シュワシュワにあてられてしまったのだろう。にゃんごろーと一緒になって踊り出す。キララは元気いっぱいに飛び跳ね、大人しい質のキラリも少しテンポが遅れてはいるものの、「きゃわきゃわ♪ にゃうにゃう♪」と精一杯楽しく踊っている。
マグじーじは、特等席で子ネコーダンス鑑賞を楽しみ、いかつい顔をドロンドロンに蕩けさせていた。
子ネコーたちの後から通路入りしたカザン、クロウ、ミフネの三人は、子ネコーたちの踊りを邪魔しないように、少し間隔を開けて、横並びになっている。クロウは記録係として正面を陣取り、カザンとミフネは壁を背にして顔だけを臨時ステージに向けていた。
長老は、「やれやれ」というお顔で、開いたままの出入り口の番人をしている。
子ネコーたちは自分の世界に浸りきっているのか、三にんが三にんとも、てんでバラバラ好き勝手に踊っていた。なのに、不思議と違和感がない。この勝手気ままなところが子ネコーらしくて、いい。むしろ、そこがいいのだ。
放っておいたら、疲れて動けなくなるまで踊り続けるのではないかと心配になったが、普段から踊り慣れている方の子ネコーは、そんな無様は晒さなかった。
最後にクルッと切れの良いターンを披露すると、ビッと片手を天井に突き上げ、フィニッシュを決める。
にゃんごろーのお歌が終わり、代わりに称賛の拍手が通路内に響いていく。
踊り慣れていないせいで、少々疲れを感じ始めていた姉妹たちは、拍手に気づいて、遅れてフィニッシュのポーズを決めた。
キララは、両方のお手々を天井に向けて胸を反らし、キラリはお腹の前でお手々を揃えてペコリと頭を下げる。
拍手の音が、大きくなった。
「いやー、三にんとも、素晴らしかったぞい」
「ああ。とてもいい踊りだった。本当に素晴らしかった」
「はい。にゃんごろー君はもちろん、キララとキラリも元気いっぱいで、とてもよかったですよ。いいお友達が出来て、よかったですねぇ」
「おー、よかったぞー」
「うむ。シュワシュワが馴染んできたせいもあるんじゃろうが、散々踊って、気が済んだようじゃのー。まあ、あれじゃ。ここで、これだけ発散しておけば、通路内で暴走して迷子になることも、たぶん、ないじゃろ」
過激派二人は、壊れんばかりに手を叩き、大絶賛した。
ミフネは、姉妹二人の名を出しつつも、とりわけ、大人しい質であるキラリのハッスルっぷりを喜んでおり、それを引き出してくれたにゃんごろーに感謝しているようだった。
クロウの言葉がちょいと素っ気ないのは、御座なりな感想を述べたわけでも、素直に「よかった」と認めることが恥ずかしかったわけでもなく、子ネコーたちの愛らしい勇姿をノートへ余さず書き記すことに忙しかったからだ。
ひとり落ち着き払っているのが、長老だった。長老にしてみれば、子ネコーのダンスショーなんて、見慣れたものなのだ。目を細めつつも、それまでのダメダメ食いしん坊ネコーっぷりが嘘のように、冷静に子ネコー状況を分析している。
ショーの余韻にちょっぴり水を差すような長老の発言は、幸いにもクロウの耳にしか届かなかった。クロウは、苦笑いをしつつも、一応、発言の内容を書き留めておく。食いしん坊発動中とのギャップが面白いな、と思ったからだ。長老とは付き合いの長い、青猫号の最高責任者三人組には需要がないかもしれないが、他のネコー好き立ちは喜ぶはずだった。最近は子ネコーにお株を奪われているが、長老はこれでも青猫号ネコー好きクルーたちの人気者なのだ。
ともあれ。
拍手喝さいを浴びた子ネコーたちは、みんなでお顔を見合わせて、満足そうに「にゃふっ」と笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます