第276話 グルグル子ネコーと助手の予言
にゃんごろーのことを一番に分かっているのは、長老だ。
にゃんごろーへの影響力が一番大きいのも、長老だ。
けれど、今回。
にゃんごろーの説得役にミフネが選んだのは、クロウだった。なぜかと言えば、解決すべき問題にお豆腐が関係しているからだ。
長老は、にゃんごろー以上に食いしん坊だ。
にゃんごろーとは、違った方向性の食いしん坊でもある。
にゃんごろーは、食への好奇心に満ち溢れたお行儀のよい食いしん坊子ネコー(にゃんごろー語ではお豆腐子ネコーという)だが、長老は盗み食いも辞さない、ならず者系食いしん坊ネコーなのだ。
お昼ごはんの食べ過ぎで、今のところは大人しくしているが、下手に長老を話しに関わらせると、どこに何がどう飛び火するか分からない。
問題が解決するどころか、更なる混迷を呼び寄せかねないのだ。
そこで選ばれたのが、お豆腐にゃんごろー先生のお豆腐助手であるクロウだったのだ。
何も言われずとも目配せだけでミフネの意図を察したクロウは、「さて、何と言って説得しようか」と考えながら問題の子ネコーへと近づき、その頭をツンツンと突いた。
突かれにゃんごろーは、グルグルのお目目をクロウに向けた。お返事は、ない。もふっと小さな頭の中では、『魔法制御室見学』と『魔法の通路でおやつ』の天秤がガッタンガタンと揺れ動きまくっているのだ。見上げてくるお目目は、クロウを見ているようで見ていない。
悩みが深すぎるあまり、愛らしいお顔からは生気が失われている。事情を知らなければ哀れを誘う子ネコーの有様なのだが、クロウは笑いを喉の奥に抑え込み、腹筋に力を込める。原因を知るクロウからしたら、笑いの発作を誘引してくるだけなのだ。
クロウは指先で、子ネコーの頭をグールグールと円を描くように撫で回しながら、精一杯の真剣そうな顔を取り繕い、真面目なトーンでの説得を開始した。
「なあ、ちびネコー。いや、お豆腐先生。通路でおやつを食べるのは、お行儀が悪いんじゃないのか?」
「……………………はっ!?」
長老ほどではないとはいえ、それなりに先生のことを把握している助手の作戦に、先生はあっさりと引っかかった。
お豆腐先生のお目目の中で、グルグルと渦巻いていた混迷がピタリと動きを止め、理性の光がほんのりチラッと灯ったのだ。
お豆腐心が溢れるが故に、にゃんごろーはお行儀を重んじる子ネコーだった。お行儀の悪い子ネコーは、すてきなレストランやカフェやらに連れて行ってもらえない、たとえ連れて行ってもらえても、お店の中でお行儀の悪いことをしたら追い出されてしまう、と思っているからだ。素敵なお店で美味しいお料理を食べたいという野望故に、お豆腐子ネコーはいつもお行儀よく振舞うように気をつけているのだ。
クロウは、そんな先生のお豆腐特性を知っていて、上手くそこを突いた。しかし、先生のお目目に理性の光が戻ったのは、ほんの一瞬のことだった。先生は、クロウの手を振り払い、イヤイヤを始めた。
「しょ、しょれは、しょーらけろ! れも! ちゅーろれ、おやちゅっちぇ、クリョーら、いっちゃんれしょ! ちょーろーらっちぇ、さんしぇー、しちぇちゃ! にゃんごろー、まひょーのちゅーろれ、キララとキラリといっしょに、ピキュニッキュのけんりゃく、しちゃい! こネコーらいっぴゃいれ、きっちょ、ちゃのしい!」
先生は、言い出しっぺのクロウの手のひら返しにいたくご立腹のようだ。ビシッと肉球をクロウに突きつける。そもそもクロウが言い出したことだし、それに長老だって賛成していたじゃないか、というのが先生の言い分のようだ。その上さらに、「むがっ!」と両方のお手々を振りかざしながら、何やら可愛いことを訴え出した。
子ネコー三にんで、魔法の通路見学兼ピクニックをしたい、という子ネコーの願いは、子ネコー過激派ではないクロウの心にもちょいと刺さった。
見学会が終わって、キラキラ子ネコーズが街へ帰ってしまえば、青猫号の子ネコーはにゃんごろーひとりだけになってしまう。身近に子ネコー仲間がいないのは、やはり寂しいのだろう。
だから、せっかく子ネコーが三にんも集まっている、今。
もっと、もっと、楽しいことをしたい。
おやつに目が眩んでいるというお豆腐事情も、もちろんあるのだろうが、それとは別に、子ネコー同士のイベントをもっと盛り上げたいという気持ちも大きいのだろう。
そう思うと、うっかりと絆されてしまいそうになったが、クロウはグッと堪えた。
自らの失言の片は自らがつけねばならない、とばかりに、クロウはしゃがみ込んで、にゃんごろーの両肩に優しく手をかけた。真面目な顔をしているが、どこかわざとらしい。
そうは言っても、子ネコーの感傷もまるッと含めて、最後はやっぱり茶番で終わるのだろうと予言できるからだ。
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