第242話 子ネコーのお尻は守られた。
魔工房見学終了後は、またマグじーじの仕切りとなった。
マグじーじは、にゃんごろーの作ったお豆腐石の運搬係に志願し、ホクホク顔でにゃんごろーからお豆腐石を受け取った。それから、レイニーが抱えている貝殻のビンに物欲しそうな視線をチラリとだけ投げかけ、未練を断ち切るように首を振ると、子ネコーたちに号令をかけた。
お昼ごはんを食べに和室へゴー!――――の号令だ。
子ネコーたちは、それぞれに、それぞれな挨拶をして、張り切るハグじーじの後に続く。
にゃんごろーは、「はい!」と元気に両手を上げて。
キララは、「はーい!」としなやかに(しとやかではない)片手を上げて。
キラリは、「はい」とお胸の前でお手々をモジモジさせながら。
それぞれが、それぞれのお返事をして、にゃんごろーを筆頭に、姉妹はその後に横並びになって、マグじーじの後をついて行く。
見送りながら、クロウは朧気ではあるが、一つの真相に辿り着いた。
何も聞かされていなかったから、どうするつもりなんだろうなと気になっていたことの答えが、何となく判明したのだ。
和室にキラキラお弁当を運び入れた時から、気になっていたのだ。
お昼ごはん中の不審者の取り扱いは、どうなるのだろうか、と。
どうやって不審者たちが和室まで先回りするのかという問題以前に、和室には不審者を匿うスペースが足りない。――――否。ベストアングルでの覗き見を希望する不審者たちを三人も隠し通せるスペースはない。
収納スペース的なところは、ある。あるには、ある。中身を片付ければ、大人が三人、入れないこともないだろう。ただひっそりと身をひそめることだけが目的ならば、そこへ押し込んでおけばいい。本人たちに忍ぶ意思があれば、何とか隠し通せないこともないだろう。
だが、ベストアングルからの覗き見を渇望し、些細なことで沸き立つ不審者たちを三人も隠し通すには、心もとない場所だ。収納スペース内で可愛さに身悶えてガタガタ物音を立てたり奇声を上げたりされたら、一発アウトだ。
お弁当に夢中なお豆腐子ネコーは誤魔化せても、本命である恥ずかしがり屋で怖がり屋な子ネコー相手に「大きなネズミがいるのかもしれない」などと言う小手先の誤魔化しは通用しないだろう。というか、そもそも。そんなに大きなネズミが潜んでいる部屋では、キラリじゃなくたって落ち着いて食事が出来ない。
だから、どうするつもりなのかとずっと気になっていたのだが、その答えが朧げに分かった。
誰が発案者で、どこまでが策略通りで、どこまでがイレギュラーなのかは不明だが、不審者たちはこの後、レイニーとお昼を共にする予定なのだろう。可愛さの詰まった魔法石の営業込みで。このまま魔工房に残るのか、食堂やカフェに場所を移すのかは分からないが、レイニーの懐が大いに潤うことだけは間違いないはずだ。
マグじーじは、先ほど、可愛い魔法石に惹かれつつも、子ネコーたちとのランチタイムを優先し、未練を断ち切ったのだ。
つまりは、そういうことなのだろう。
そのように、クロウは解釈した。
クロウはフッと乾いた笑みを浮かべると立ち上がり、まったくこちらを気にしていないレイニーに軽く頭を下げてから、魔工房を後にした。見学会メンバーとしては、クロウが最後の一人だった。
通路に出ると、時折ジュルジュル音が混じる、浮かれた子ネコーの歌が聞こえてきた。
「きゅるきゅるきゅるるん、ぐぐっぐぅー♪ きょーおの、おひりゅは、おべんちょ♪ キーラキラのおべんちょ♪ ジュルッ♪ はーやく、ちゃべちゃい、おべんちょ♪」
「きゅきゅるきゅるるん♪」
「キラキラー♪」
歌いながら、ぴょこぴょこ飛び跳ねる子ネコー。
姉妹ネコーは、その後をゆっくりとついて行きながら、時折合いの手を入れる。お豆腐が弾ける子ネコーに釣られたのか、恥ずかしがり屋の子ネコーも楽しそうに声を出している。
「はしゃぎすぎて転ぶなよー」
歌の内容を書き留めながら、聞こえないのを承知でクロウは小さく呟いた。
幸いにも、お約束のようなツルっとぽふんは起こったりせず、にゃんごろーのお尻は守られた。
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