第233話 いっぱいをギュッ!

 儀式のようなお遊戯会が無事終了し、いよいよ、にゃんごろーの出番がやってきた。

 子ネコーたちが一息ついたところで、レイニーが冷静かつのんびりと見学会を進行させてくれた。


「うみゅ。では、お次は、にゃんごろー君の番なんだにゃ。ミャアとキラリのお手本で、大体分かったかにゃ?」

「はい! えちょ、みょーいっきゃい、おちぇほんを、みせちゅくらしゃい! はじめちぇらっちゃきゃら、『ほわほわほー』ってなっちぇ、やりかちゃを、おぼえりゅように、みちぇなかっちゃにょ。らから、みょーいっきゃい、おねらいしみゃしゅ! こんろは、ちゃんちょ、やりかちゃを、おびょえりゅ!」


 レイニーに促されたにゃんごろーは、威勢よくお返事はしたものの、勇んで魔法石作りを始めたりはせず、お手本の再演を願い出た。レイニーとキラリから、合わせて二回のお手本を見せてもらっていたけれど、物珍しさが勝って、弟子・後輩目線ではなく、一般見学者目線で楽しく鑑賞してしまったことを正直に申し出て、次はちゃんとやり方を学ぶお手本として正しく見学することを力強く誓った。

 レイニーは「ふみゅ」と頷くと、貝殻平原から、無造作に五つほど貝殻を選んだ。


「では、さっきとは、またちょっと違うやり方を見せてあげるんだにゃ」

「はい! おねらいしみゃしゅ!」


 ちゃんと覚えるまでは、同じやり方を見せてやった方がいいのでは、とクロウは思ったが、どこからも静止の声は上がらなかったので、クロウも口を噤んで見守ることにした。

 集めた五つの貝殻の上で、レイニーはお手々グルグルを始める。

 クロウには魔法の流れは分からないので、貝殻の行末よりもレイニーの柄の行末の方が気になっていた。

 そして、ついに、レイニーのグルグルが止まる。


「ん――――にゃ!」

「お、おー…………」

「はうーん…………」


 掛け声に合わせて、レイニーのレインボーが躍り出した。

 もふもふと真っ白な絨毯の上で、色鮮やかな光のダンスパーティーが繰り広げられていく。軽やかでリズミカルな音楽が聞こえてきそうだった。

 魔法のことはサッパリなクロウと、魔法そのものには興味のないキララが、感嘆の声を上げる。

 実演中レイニーのレインボー見学でも、お金が取れそうだな、とクロウは思った。一応、ノートにもメモっておいた。

 大盛況のダンスパーティーの末、白いもふもふ絨毯には、より鮮やかで華やかで賑やかなカラフル地図が描かれた。

 同時に、魔法石が完成する。


「ほっほっほう!」

「はぁ…………」


 にゃんごろーから、興奮交じりの感嘆の叫びが放たれ、キラリはうっとりとため息をもらした。

 五つあった貝殻は、琥珀色に輝く石へと姿を変えていた。先ほどレイニーが作った飴玉サイズの魔法石よりも、一回り大きい。


「みゅふふ。小さくて魔法の力が弱い材料も、いくつかまとめて『ん――――にゃ!』をすれば、大きくて、魔法の力が強い魔法石を作ることも出来るんだにゃ! 大きさを優先したり、魔法の力を優先したり、いろんな属性の魔法を重ね合わせたり、上手になれば、自由自在なんだにゃ!」

「ほわぁああああ…………」

「たくさんの材料から、たくさんの魔法石を一度に作ることも、出来るんだよ。そういうのは、お父さんが、得意なんだ」

「ほほほぅ…………」


 にゃんごろーは、感心仕切りのお顔で、レイニーを見つめ、キラリを見つめ、最後に琥珀色の魔法石へ熱視線を注いだ。

 痺れるような感嘆の声を上げてはいたが、話の内容を分かっているのかは微妙なところだな、とクロウは失礼なことを考えた、が――――。


「しゃっきちゅくっちゃのより、ちょっちょらけ、おおききゅちぇ、まひょーのちららが、キラキラしちぇるねぇ。ふみゅ、ふみゅ。こりぇは、いっぴゃいのを、ギュッっちぇしちゃヤチュ! しょれちょ、いっぴゃいのを、いっぴゃいにも、れきりゅ! ふうみゅ。にゃるほろ、にゃるほろ…………」


 子ネコーは、意外とちゃんと理解しているようだった。

 今度はクロウが、「ふうん?」と感心の眼差しをにゃんごろーへ送る。

 にゃんごろーが話を理解できたのは、レイニーのお手本によって、魔法石を作る際の魔法の流れを、感覚として捉えることが出来たからだった。感覚を掴んだことで、説明がスルルンと頭に入って来たのだ。

 琥珀を見つめていたにゃんごろーが、お手々に大事に持っていた巻貝に視線を移した。にゃんごろーはお手々の中の巻貝を見つめて「ふうみゅ」と唸ると、巻貝を床の上にコトリと置いた。


 それから、ジュルゥリゴックンと涎を飲み下し、お口の周りをペロペロとなめ回してから、もふもふお手々を二っつ、貝殻平原へ伸ばした。

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