第231話 子ネコーの苦手語り
頭の中はお豆腐で、お口の中は涎でいっぱいの子ネコー、にゃんごろー。
キラリ先輩のお手本実演が終わったところで、「お次は自分の番だ!」と張り切って立候補するのでは、とクロウは予想したが、森の子ネコーは予想を裏切ってきた。
感心なことに、お豆腐と涎でいっぱいになりつつも、ちゃんとキララのことを覚えていたのだ。
「ちゅぎは、キララのればんれしょ? しょのちゅぎら、にゃんごろーの、ればんきゃな? うふふ、ろっちも、ちゃのしみらねぇ! キララのまほーしぇきは、ろんなかんりに、にゃるのかにゃ? キララ、ふたちゅえらんれるけろ、ろっちれちゅくるの? は!? もしきゃしちぇ、ふたちゅ、いっしょにちゅかうの!? しょ、しょれは、しゅろいねぇ!? ワクワク♪ ドキドキ♪ ねえ、キララ。まら?」
「ううん! わたしの出番は、ないわよ! だって、わたし、魔法石作るの、苦手だから!」
キララに話かけている内に、ひとりで勝手に楽しくなってきたにゃんごろーは、期待にお目目を輝かせたが、キララは悪気なく、それをバッサリと薙ぎ払った。
にゃんごろーは、「ほえほえ?」とお顔を傾げた。
貝殻を選び終えたキララが、「この貝殻は、このままアクセサリーにする!」と宣言したことは覚えていないようだ。ちゃんと聞いていなかっただけかもしれない。
どちらにせよ、にゃんごろーは、ほにゃ顔でキララを見つめた。
キララは、苦手だという割には得意そうなお顔で、堂々と威勢よく、自分の苦手ぶりを語り出した。
「なんかねぇ、こなごなにするところまでは出来るんだけど、そのままサラサラサラーって、どこかへ消えてなくなっちゃうのよねぇ! どうしてなのかしら? 何回か練習してみたんだけど、うまくいかないから、飽きちゃって! だから、作る方はキラリにお任せして、わたしは売る方をがんばることにしたの! その方が、向いているし! そっちの方が、楽しいし! 材料もムダにならないし! えーと、適材適所ってヤツ!」
「ほ、ほほぅ? ちぇきらー、ちぇきにゃー?」
「そうそう! てきらーてきにゃー、なの! それに、ほら! せっかく、こんなにキレイな貝がらなんだから、このまま使わなきゃ、もったいないじゃない! 魔法石には、あんまりキレイでも可愛くもない貝がらを使うべきだと思うの! その方が、世界にキレイで可愛いものが増えるでしょ! へたくそな魔法で、減らしちゃうのは、よくないと思うの!」
「ほ、ほぇー?」
苦手語りからキレイで可愛いもの語りへと話は移行し、キララにも熱が入って来た。キララは、巻貝と二枚貝の片割れを両手で大事に持ちながら、お顔をズズイとにゃんごろーに近づける。にゃんごろーは、お目目をパチパチさせたが、避けたりのけ反ったりはしなかった。
ふたりの物理的な距離は、急接近で大接近だ。
今度はキララの出番か~と思いながら、クロウはホクホクとペンを動かし、最後にチラリとキラリの様子を窺った。
キラリは「仕方がないなぁ」というお顔で、キララを見守っていた。見つめているというより、見守っていた。控えめな妹が暴走しがちな姉を見守る時の眼差しだ。
三角めいたことにはならないのだな、と少しだけ物足りなく感じながら、クロウはその様子もしっかりと書き記した。
妹に見守られ中の姉ネコーは、キレイで可愛いもの語りがあまり響いていない様子の子ネコーに業を煮やしたようで、キラリと同じ戦法をとった。
話の中に、お豆腐を混ぜ込んだのだ。
「んーもー、だからぁ! にゃんごろーだって、美味しいものが消えちゃうよりも、美味しいものが増えた方がいいでしょう!?」
「んにょ? ふえりゅのは、うれしーけりょ。れも、おいしーものは、いちゅかは、きえちゃうものれしょ? らって、たべちゃら、なくにゃっちゃうんらみょん」
「あーん、もー! そうなんだけどー! でも、そうじゃなくてぇー!」
戦法は合っていたが、キララは攻め方を間違えてしまった。
キララとしては、もっとふわっと抽象的に、比喩的に捉えて欲しかったのだが、にゃんごろーはキララの言葉を真正面から受け止めて、ごく常識的な答えを返してきたのだ。
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