第230話 じゅるじゅるゴックン
にゃんごろーのもふ毛の先から放たれる、滾るような熱を、キラリは魔法石への興味だと捉えた。お豆腐に浮かされてギラギラしているお目目を真っすぐに向けて来るにゃんごろーを、キラリは真正面から受け止める。
その圧倒的なお豆腐熱量に圧されも、怯えもしなかった。
キラリはキラリで、にゃんごろーにも負けない情熱を魔法石へ注いでいる、ある意味同志だったからだ。
にゃんごろーのお豆腐熱にあてられて、キラリも熱を爆発させた。
恥ずかしがり屋の気質は熱量に溶かされた。たどたどしかった口調は消え、キラリは自ら、ググイとお顔をにゃんごろーに近づけ、滔々と語りだす。
「そうなの! だからね、それが、美味しい材料を選んで、美味しくなるように魔法を使って、最初から美味しい魔法石を作る、オーダーメイド方式の作り方なの! レイニーさんが、青猫号でクルーの人たちに頼まれて作ってるのは、こっちがメインだと思う! オーダーメイド方式だと、より美味しい魔法石が作れるんだよ!」
「うみゅ? まあ、大体、そんな感じだにゃ。今は、特に、オーダーメイドが殺到しているんだにゃ。けど、気分転換で、素直方式を作ったりもするんだにゃ」
「ほっほほほほほ、ほほほっほう!」
熱が入るあまり、キラリは少々説明を謝った。お豆腐子ネコーへの配慮の加減を間違えてしまったのだ。
魔法石は、食べ物ではない。
美味しい夢を見せることは出来るかもしれないが、魔法石そのものは食べられない。なのに、うっかり説明から夢成分を弾いてしまったのだ。
レイニーは「おや?」と首を傾げはしたが、否定はせず、というかゆるっと肯定する方向で説明を補足した。「まあ、いいか」というネコーにありがちな思想が透けて見えた。
お豆腐子ネコーは、じゅるじゅるゴックンと涎を飲み込み、お目目をビカッと光らせた。もふもふと小さな体から、真夏の太陽のような熱量を放っている。
七変化語りを終え、先輩と後輩の交流見守りへ移行していたキララとクロウは、にゃんごろーに若干の呆れを含んだ視線を注いだ後、顔を見合わせて頷き合った。
『絶対に、お豆腐勘違いをしているよな(ね)?』
どちらの顔にも、しっかりとそう書かれていた。太字で。濃い目に。
ちなみに、視線に含まれた呆れが若干で済んだのは、今さらだからだ。慣れ、ともいうかもしれない。
ふたりは、もう一度頷き合った。
今度のそれは、不干渉の見守りを誓い合う頷きだった。
ふたりとも、お豆腐子ネコーの平常運転勘違いを指摘するつもりはなかった。
ふたりとも、にゃんごろーの勘違いを最後まで見届けるつもりだった。
その方が、面白いからだ。
なんとなく、行動の予想はついたが、それはそれ。
いや、予想がついているからこそ、答え合わせをしたかったし、勘違いの結末を実際に見てみたかった。
その方が、楽しそうだからだ。
実に長老的、ネコー的な考えなのだが、クロウはそれに気づいていながら、目を逸らした。
(その方が、レポート映えするしな)
――――と、自分に言い訳をしながら、勘違いの行末を期待した。
残念ながら、お豆腐子ネコーの勘違いご披露は、もう少し先になりそうだった。
勘違いをさせていることに気づいていないキラリ先輩が、素直方式の説明を始めたからだ。オーダーメイド方式はともかく、素直方式というのは、今この場で生まれた言葉なんだろうな、と思いながらもクロウは素直に書き記した。
そのまま、素直方式という言い方が定着するかもしれないし、しないかもしれなかった。
それが、ネコー方式なのだ。
子ネコーのキラリは、すんなり素直に素直方式という名称を採用した。
「それでね、素直方式っていうのは、最初から、方向性、指向性、ええと、こういう味にしようって、決めて作るんじゃなくて、魔法の力はもちろん宿っているけど、後からいろいろカスタマイズできる、んと、いろんな味に加工できるやり方のことなの。こっちの方が、簡単で、わたしは、まだ、素直方式でしか、作れないんだ。オーダーメイドは、練習中なの」
「ほっほほぅ! ちゅまり、さいしょから、おりょうりにあわしぇちぇ、おソースがかかっちぇるのら、おーらーめいろれ…………。あじら、ちゅいちぇなくちぇ、おしおちょか、レモンちょか、あちょから、りるんのしゅきにれきりゅのら、すにゃお、っちゃこちょか! にゃるほろ、にゃるほろ。ろっちも、いいちょおみょう! シェフーのごりまんのあじちゅけも、しゅららしいし! りるんのしゅきなおありにしゅるのも、しゅちぇきれ、ちゃのしい! ううみゅ! まほーしぇき! しゅららしい!」
「うん! そう! そういうこと! ちゃんと、分かってくれたみたいで、わたしも、うれしい!」
「うーみゅ。まあ、考え方は、あっているにゃ?」
「みゅふふふふ!」
シェフが料理に合ったソースをかけたご自慢の味がオーダーメイド方式で、味付けされていない料理に自分好みの調味料をつけて食べるのが素直方式、とお豆腐子ネコーは表現した。
例えとしては、それで合っているのだろう。先輩から太鼓判の花丸を、工房の主からは一応の合格をもらい、にゃんごろーは涎まみれのお顔で得意げに笑った。
キララとクロウは、ふたりそろって笑いを堪えていた。
にゃんごろーは例え話をしたわけではない、と分かっていたからだ。
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