第228話 キラリ先輩のお手本

 キララがクロウと、一方的に親交を深めていた頃。

 キラリとにゃんごろーも、さらに親睦を深め合っていた。


「では、お次はキラリの番なんだにゃ。にゃんごろーに、お手本をみせてあげるといいんだにゃ」

「は、はいっ」


 華麗なる実演をご披露したレイニーは、次に、お手本としてキラリをご指名した。

 職人として尊敬しているレイニーから名指しされて、キラリは声を弾ませる。恥ずかしさよりも嬉しさの方が勝っているようだ。

 にゃんごろーは張り切るキラリに向かって、もふもふペコリと頭を下げた。お手本を見せてくれると言うことは、キラリはにゃんごろーの先生ということになる。ならば、礼を尽くさねばならないと考えたのだ。


「おちぇほん! キラリしぇんしぇい、おねらいしみゃしゅ!」

「せ、せせせせせ、先生、だなんて、そ、そそ、そんな…………っ。はっ、はわっ、はわわわわっ」


 にゃんごろーに「先生」呼ばわりされたキラリは、「はわはわ、あわわ」とお手々を激しめに振り回し始めた。素材選びの時はお姉さん風を吹かせていたけれど、突然の「先生」呼ばわりは、少々ハードルが高すぎたようだ。取り乱し過ぎて、素材の貝殻を放り投げそうになっている。


「う、うーみゅ。先生よりは、キラリ先輩の方がいいかもしれないにゃ」

「せ、せせ、先ぱい? そ、そそ、それなら、せ、せせ、先生より、いい、かも…………?」

「わかっちゃ! りゃあ、キラリしぇんぴゃい!」

 

 キラリを心配したのか、素材を心配したのかは不明だが、見かねたレイニーが間を取り持って「先輩」呼びを提案した。

 先生から先輩に格下げしたことで、キラリも少しは平常心を取り戻せたようだ。三毛柄の尻尾は、もふもふウネウネと落ち着きなく動き回っているが、お手々のわちゃわちゃはおさまって、素材の安全は守られた。

 にゃんごろーは、素直に要望を聞き入れた。気をきかせた、というわけではない。そもそも、キラリの動揺には、まるで気づいていなかった。


「キラリしぇんぴゃい、おちぇほん、らんらっちぇー! にゃんごろー、おうえんしちぇるぅ!」

「うみゅ。いつも通りにやれば、問題ないんだにゃ」

「は、ははははは、はい!」


 にゃんごろーは、キラリ先輩へ無邪気な声援を送った。キラリ先輩は、一層激しく尻尾をくねらせた。そこへ、レイニーからの信頼が込められた後押しが続く。尻尾は天井に向かって、ピーンと真っすぐに伸びた。


「そ、それでは、お手本、いきます!」


 湯気が立ち昇りそうだったお顔をキリリと引き締め、キラリはレイニーと同じように、肉球にのせた貝殻の上で、もう片方の肉球をグルグルと動かす。肉球は、愛らしいピンクだった。にゃんごろーの肉球とおそろいの色だ。

 肉球グルグルが止まった。

 貝殻の真上だ。


「ん――――――――にゃ!」


 レイニーをそっくり真似た掛け声と共に、肉球の上の貝殻は砂になり、玉になった。

 レイニーが作った魔法石よりも、一回り小さい、乳白色の玉。所々に、キラリの肉球を思わせる、ピンクの筋が入っている。


「ほわほわ、ほほほぅ…………! ほっほほぅ! キラリの、まひょーしぇき、かわいいおいろらねぇ! しゅろーい! しゅちぇき!」

「え、えへへ…………」


 にゃんごろーが子ネコーらしい感想と共にお手々をポムポムして称えると、キラリは真っすぐだった尻尾をもじもじと揺らしながら照れた。

 続いて、レイニーが、もふっと腕組みをしながら、職人らしい観点でキラリを褒める。


「うみゅ、うみゅ! 見た目も可愛らしく、魔法の力も、ほどよくいい感じだにゃ! 方向性がない素直な魔法で、カスタイマイズしやすそうだにゃ! ストック用の魔法石として、申し分ない出来なんだにゃ!」

「は、はい。ありがとう、ございます!」

「ふみょ? しゅにゃおれ、カスタミャれ、シュチョックにゃ、まほー? ほえほえほえー?」


 師匠と仰ぐネコーからの誉め言葉に、キラリはピシイッと尻尾を伸ばしたが、にゃんごろーは「ふみょふみょ」と揺らした。尻尾と一緒に、頭も左右に揺らし始める。

 子ネコーメトロノームが完成した。

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