第227話 魔法石で七変化
クロウは、キララの前で膝をついて、ペンを受け取った。
窮地を救ってくれたことに敬意を表して、というわけではない。
聞きたいことがあったからだ。
キララが、レイニーの配色変化に感激してクネクネダンスをしていた姿は目に入っていたので、お楽しみの邪魔をしてしまうのではという遠慮もあったが、好奇心の方が上回った。
クロウはキララと目線を合わせて尋ねた。
「な、なあ? レイニーさんの模様っていうか、色っていうか、あれ、今…………?」
「そう! そうなの! すごいでしょ! レイニーさんはね! 元々は長老さんみたいな、真っ白ネコーなの! でもね! 魔法石を作る時に、魔法の力がナンチャラしちゃって! 魔法石を作る度に、色と模様が変わっちゃうの! 魔法で、毛が染まっちゃうみたいな? わたし、あれを見るのが、毎日の楽しみだったのよ! なのに、レイニーさんが青猫号に行っちゃって、本当に悲しかった! だから、今日は、またレイニーさんの七変化が見られるって、すっごく楽しみにしてたんだー♪」
「あ、あー。なる、ほどー?」
遠慮する必要はなかったようだ。
キララは、自分の大好きを語れるのが嬉しいようで、久しぶりに七変化を見ることが出来た興奮も相まって、心の準備以上の情報を「わぁっ!」と一気に溢れさせた。
感激のクネクネを中断してまで、クロウにペンをお届けしてくれたのは、七変化愛を語る相手が欲しかったからなのでは、と思われた。
キララの圧が強すぎて、クロウは情報を整理しきれずにいた。ペン先はノートの地平から離れた場所で踊るばかりで、地平には何一つ刻まれていない。
けれど、そんなことはおかまいなく、キララの七変化語りは続いた。
「一回、魔法石を作ると、しばらくは七色のままなんだー♪ 夜、寝ている間には白く戻るから、朝には真っ白になっているだけどね♪ 昼間は、ずっと工房で作業しているから、見る度に違うネコーみたいになっているの♪ すごいよね♪ 楽しいよね♪ でも、やっぱり♪ 色が動き回っている時が、一番好き♡」
「へ、へぇ? そうなん、だ?」
「あ! ちなみに、あれはね! レイニーさんだけが、特別なの! だから、にゃんごろーが違う色とか柄になったりはしないから、安心してね!」
「あー、う、うん?」
「それでね…………あら? クロウさんってば、さっきからペンが動いてないわよ? ちゃんと、お話、聞いてたの?」
「いや? うん? まあ、聞いては、いたけど?」
「はっ! もしかして、わたし! 早口すぎたかしら!? ごめんなさい! レイニーさんの素晴らしさを伝えたい気持ちが、ぼうそうしちゃって!」
「う、うん…………?」
キララは、両方のお手々でお顔を挟んで「きゃっ」と恥じらった。暴走気味の自覚は、一応あるようだ。
圧され気味のクロウは、生ぬるい笑みを浮かべて、あいまいな答えを返す。
「安心して、クロウさん! もう一度、最初から、今度はもっとゆっくりと話すわね! だから、レイニーさんの素晴らしさを、しっかりとレポートしてね!」
「わ、分かった!」
キラキラの笑顔と共に、親切の押し売りを強制的に買い取らされ、クロウは覚醒した。
恐ろしい事実に気づいてしまったのだ。
『こいつ、レポートを完成させるまで、同じ話を何度でも繰り返すつもりだ!』
背筋に走った戦慄は、すぐに気合に変わった。
何としても、次の一度で終わらせるという決意を込め、ペンに力を込める。
キララは、クロウの後ろ向きなやる気を前向きにとらえ、再びレイニーの七変化語りを嬉々として始めた。キララは、クロウのことを七変化愛伝導師仲間と勝手に認定したのだ。キラキラの瞳には、一方的な信頼が垣間見えた。クロウは気づかなかったことにした。
二回目の七変化語りは、最初の内は宣言通りゆっくりめだったけれど、徐々にペースが上がっていった。
クロウは、それを必死で書き取っていく。
話の筋道は少し違ったけれど、内容はほぼ同じだったため、何とか書き漏らさずに済んだ。七変化愛に圧倒されてペンが止まっていたとはいえ、一度目の説明も、一応ちゃんと聞いてはいたのだ。
語り終えるとキララは、弾ける笑顔とズズイと近づけ、尋ねてきた。
「で、どう? どう? 今度は、だいじょーぶだった? レイニーさんのステキさ、ちゃんと書けた?」
「おう、バッチリだぜ!」
クロウはわざとらしキメ笑顔を浮かべ、ズリズリと後ろに下がりながら答えた。
「よかった!」
「うん、よかった」
七変化レポート作成に貢献出来たことを喜び、小花が咲き乱れるように笑うキララ。
クロウは、キメ笑顔を引きつらせながら、それに答えた。
口から出まかせなんかではない。
二回目の語りで、レポートを完成させられたことを、クロウは心から喜んでいた。
これで、もう、同じ話を聞かされずに済むし、それに。
これで、もう、七変化圧から解放されるはず、だからだ。
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