第187話 子ネコーの提案
再開と初めましてのご挨拶が一通り終わった後は。
マグじーじから、今日の予定が発表される運びとなった。
マグじーじと向かい合わせに、子ネコーたちはズラリと横並びになった。真ん中は、キラリだ。にゃんごろーとキラリの間には、少し隙間があるが、姉妹たちは腕をもふっと絡め合い、寄り添い合っていた。残りの人間たちは、子ネコーたちの背後にいた。カザンとクロウは、にゃんごろーの後ろに並んで立ち、ミフネは姉妹の後ろへついた。
そして、長老は。
予定では、マグじーじと一緒に前に立って、予定発表の大役を担うはずだったのだが、なぜだかミフネの周りをウロチョロしては、ミフネが抱えている大荷物をジジジジジッと見つめている。それ以外、何も目に入っていないような有様だ。
マグじーじは、任務を放棄した長老へ呆れた眼差しを向けたけれど、すぐに気を取り直して子ネコーたちに視線を移した。子ネコー姉妹は、キラキラ・ワクワクとしたお顔をしている。にゃんごろーは、初めはマグじーじと一緒になって長老へ責めるような呆れ視線を送っていたけれど、すぐに諦めてお顔を前に戻した。今度は、少し緊張したような、見守るようなお顔でマグじーじを見上げている。
子ネコーたちを見下ろす、マグじーじの頬が緩んだ。そのまま、崩れ落ちそうになる頬っぺたを慌てて引き締め、マグじーじは咳払いをした。
「うおっほん。本日の予定を説明する前に、まずは簡単に青猫号のことを紹介するとしようかの。にゃんごろーは、前に軽く見学会をしておるし、キララちゃんたちもお父さんやお母さんから聞いて、知っている話もあるかもしれんが、おさらいと思って、聞いておくれな」
「はい!」
「はい! お願いします!」
「お、おおおお、お願い、します……」
マグじーじが、お願いを兼ねた前置きをすると、子ネコーたちは、元気に、ハキハキ、モジモジと、それぞれのお返事をした。どの子ネコーも、大変に愛らしい。マグじーじは相好を崩しまくり、うんうんと何度も頷いてから、青猫号の紹介を始めた。
「それでは、始めるぞ。まずは、ワシらが今いる、この大きなお船……青猫号のことからじゃ。青猫号はのぅ、古代文明の遺産…………あー、うー、すごーく昔に造られた、空を飛ぶことが出来る魔法のお船だったんじゃ。ずっと、眠ったまんまでいたのを、ワシとこのルドル、それから他二名が、若い頃に見つけて、起動…………あー、眠っていたお船を起こして、お船の魔法のシステムに、持ち主として認められたんじゃ」
「へええ!」
「こ、ここ、古代の、ま、魔法の、お船っ…………!」
この辺りのお話は、にゃんごろーは、すでに知っていた。前の見学会の時に……とマグじーじは言ったが、それよりも。マグじーじの説明練習に散々付き合わされたからだ。マグじーじは、お船のことにもお魔法のことにも詳しいのだが、子ども向け・子ネコー向けの説明が得意ではないのだ。難しい言葉を使いがちなため、にゃんごろーの見学会の時には、にゃんごろー向けの説明は、ほとんど長老がしていた。それが悔しかったようで、子ネコー姉妹向けの説明は、今度こそ自分がやりたいと言って、子ネコーにも分かるお船説明の練習をしていたのだ。練習には、にゃんごろーだけでなく、長老とクロウも参加させられていた。
その甲斐あって、今回のターゲットである子ネコー姉妹は、見事な食いつきを見せてくれた。
話の内容も、どうやら初耳情報だったようで、興味津々のお顔でマグじーじを見上げている。特にキラリの方は、恥ずかしさからか、最初はマグじーじを直視できず、背後に流れている雲へと視線を泳がせていたのだが、今は食い入るような熱い眼差しでマグじーじを見つめている。にゃんごろーのお豆腐(にゃんごろーは好奇心旺盛という意味でこの言葉を使っているが、周囲の者たちは食いしん坊という意味合いで使用している)に通じるものがあるようだ。
ちなみに、話に出てきたルドルとは、長老のお名前である。そして、“他二名”扱いされたのは、コンテナの陰に隠れているナナばーばとトマじーじのことだ。マグじーじの話がバッチリ聞こえていた二人は、「おのれ、マグめ!」と唸り声を上げたけれど、風に邪魔されて、子ネコーたちの元へは届かなかった。
おかげで、お船の紹介は恙なく進んで行く。
順調な滑り出しに、にゃんごろーの緊張も解けていった。
にゃんごろーの発声魔法練習は日の目を見なかったけれど、だからこそ、マグじーじのことを応援したかった。お船説明が、最後までうまくいったら、いっぱい褒めてあげて、一緒に喜ぼうと思った。でも、もしも途中で失敗してしまったとしても。その時は、よかったところを褒めて励ましてあげよう、とも思っていた。クロウがにゃんごろーを認めてくれたように。クロウがにゃんごろーを認めてくれて、にゃんごろーは嬉しかった。だから、自分も。にゃんごろーもマグじーじに、同じようにしてあげようと思ったのだ。
認めてもらえるのは、嬉しいものだ。
でも、誰かを認めてあげるのも、とても素晴らしいことのように思えた。そうすることで、マグじーじの心が慰められ、喜んでくれたら……。きっと、にゃんごろーも嬉しくなる。そんな予感がしていた。
子ネコーの胸の内で起こっている、さざ波のような変化に気づくことなく、マグじーじの一生懸命なお船説明は続いていった。
「昔はのぅ、この青猫号に乗って大空を駆け回り、世界中のあっちゃこっちゃで起こった魔法絡みの事件なんかを解決して回ったもんじゃ。じゃが、ちょいと張り切り過ぎてしまってのぅ。青猫号は、お空から落ちてしまったのじゃ」
マグじーじは、そこで一旦言葉を区切り、在りし日を懐かしむように空を見上げた。そのマグじーじを、子ネコーたちも見上げている。
キララたちは、続きを待ってワクワクと。
にゃんごろーは、「いい調子だ!」と、応援の眼差しにぐっと力を込めた。
「森に落ちた青猫号は、海に向かって森を滑り落ち、海の中に突っ込む直前で、何とか止まったのじゃ。じゃが、それ以来…………。青猫号は、また眠りについてしまったのじゃ。魔法の力が、全部眠ってしまったわけじゃないんじゃがのぅ。もうお空を飛ぶことは出来なくなって、今はこの砂浜の上で、一休みをしておる最中なのじゃ」
「なるほどー。それで、今は青猫号で働くクルーのみなさんのアジトになってるってわけね!」
「うむ、そういうことじゃ」
「そ、空は、飛べ、なくても……。お、おお、お船、には、まだ、こ、ここ、古代の魔法、が、生きて、いる?」
「うむ、その通りじゃ。昔のようにとは、いかないがのぅ。船の中で便利に暮らせるのは、古代の魔法システムのおかげなんじゃ」
「す、すす、すごい…………!」
マグじーじが話を再開すると、子ネコー姉妹がそれに加わってきた。ふたりとも、それぞれ気になったことへの考察やら質問やらを飛ばしてきた。マグじーじは姉妹の飛び入りを喜び、嬉しそうな顔でふたりに頷きを返しながら、補足の説明を加えた。
楽しそうに盛り上がる三にん。
(よかったねぇ。マグじーじ。いっぱい、れんしゅー、したもんね!)
にゃんごろーは、そんな三にんのお顔を代わる代わる見比べながら、うんうんと満足そうなお顔で頷いていた。まるで、じーじの晴れ舞台を見守る、孫のような心境だ。
まだ説明の途中なので、心の中だけでマグじーじへの肉球拍手を贈ると、にゃんごろーはキッと長老を振り返った。
長老はミフネの周りをウロウロしながら、ミフネの荷物をソワソワチラチラと気にしている。
(マグじーじが、こんなにがんばってるのに! もう! ちょーろーは!)
にゃんごろーは「むぐぅ」とお顔をしかめ、子ネコーよりも子ネコーみたいな長老を睨みつけるが、もちろん効果はない。にゃんごろーは、あっさりと諦めてため息を一つつくと、お顔を前に戻してマグじーじを見つめ、「あ!」というお顔になった。
とても、いいことを思いついてしまったのだ。
にゃんごろーは「はい!」と元気よく手を上げて、マグじーじにある提案をした。
提案をして、にゃんごろーは。
マグじーじがお返事をする前に、さっそく行動に移すのだった。
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