仮じゃなくて。

「俺は河崎かわさきがいい」

「私は…」

 私は、後東ごとうさんのこと…。

「俺じゃダメ…?」

「普段ならダメですけど、ダメじゃないです」

「揺らがないねぇ」

 河崎らしいやと言って、おもむろにバッグからヒゲ剃りを取り出す。

「洗面所、借りていい?」

「はい。どうぞ」

 案内しながら、ふと今後のことを考える。

 とりあえず、包み隠さず両親には報告しようって思ってて…。後東さんにわざわざお越しいただいたけど…。

「河崎、これを機に考えてくれないか?」

「後東さん、やっぱり…」

 振り返ったら、意外と後東さんとの距離が近くて、仰け反ったら引き寄せられた。

保志野ほしのくんの方がいいの?」

「そういうんじゃな…」

 ごめん…。そう言って後東さんは力強く抱き締めて、

「河崎のこととなると、俺はダメだな…」

「そうは見えませんけど…」

「河崎にはそう見えるだけだよ。本当、余裕なくて…」

 最低だよ。俺は。って言いながら、ヒゲを剃る準備をしているので席を外そうかと思ったら、

あんちゃん、寂しいから一緒に居て」

「は?」

「俺、寂しがり屋だよ」

「可愛く言っても、オッサンはオッサンですからね」

「チッ」

 剃り始めたので、無言になった後東さんを鏡越しに見てた。

 私は、彼の全てを愛せるのか。

 否、荷が重過ぎる。

 やはり、両親には全て真実を話すべきか…。

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