古今未曾有

「たのもぉー」

 そして、林檎りんごさんは引き戸を勢いよく開ける。

 普通の飲み会のようである。

 いわゆる二十代が集まる若者の中に一人だけ浮いている人物がいた。

「林檎さん…?」

 林檎さんの顔を見た途端に、今まで見たことない青ざめた顔の館花たちばなさんは立ち上がり、

「呼んでませんけど…」

 林檎さんが来るとは思わなかったのだろう。

「うん。呼ばれてないけど呼ばれた気がしたのよ」

 彼に。と、保志野ほしのくんを指差した。

「いい加減、若いオトコあさるの、やめたら?」

「林檎さんに言われたくないです」

 館花さんと林檎さんが火花を散らしている間に、その席にいた若者たちは蜘蛛の子を散らしたように去って行った。

「じゃあ、そろそろお開きにしましょうかっ」

 一人残った保志野くんは笑顔で、立ち上がる。

「俺、ホシノくんと飲みたいな…」

「そうですか…」

 後東さんは、保志野くんに見せつけるように絡ませた指を離してくれそうにない…。

「もう良く見えますから、離してください」

「嫌だ。ホシノくんイケメンだから眩しくて周りが見えない…」

 ますます指を絡ませる後東さんに、溜め息しか出なくなった…。

「単なる疲れ目じゃないですか…?」

「そうかも知れないね…」

 そんなやりとりをしている間に、目の前には保志野くんがいた。

「あんずさん、行きましょう…」

 保志野くんが差し出した手を後東さんが握る。

「河崎は、やれない…」

「は…?」

 思わず、声が出てしまった。

 唖然としたのは、私だけで…。目の前にいる保志野くんは少し笑って、咳払いをする。

「あんずさんのご両親には承諾していただいているので、大丈夫です」

「はいっ?!」

 更に、変な声が出てしまった…。

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