連行

「お疲れ様でした…」

河崎かわさき、ストップッ」

 呼び止められたので、少し立ち止まったら。

「いい子だね」

 林檎りんごさんはそう言うと、私の視界から消えた。

「え…?」

 消えた?!

「ごめん…」

 耳元でそう囁いた後東ごとうさんの声に、少しだけ安心した…。

「じゃあ、今から修羅場へ向かいましょうかっ」

 はい…?

「モモからホシノくんを奪いに行きますよっ」

 何か楽しげに言う林檎さんは鼻歌を歌いながら、私が今、行きたくない気持ちなどお見通しなのだろう…。

「ちょ…」

 前が見えないまま、移動は嫌ですっ!

 必死の抵抗をしながら、頭に浮かんだのは後東さんだった…。

「た、す…けて……」

 頼れる存在だから、ね…。

「誰に、言っているのかな…?」

 後東さんがいきなり離してくれたので、私の視界は眩しくて見えない…。明る過ぎる…。

「はい。お手をどうぞ…」

 歩きづらい私の手を掴んで、後東さんは指を絡ませる。

「これなら大丈夫…」

 手を振り払っても、どうやら握り方を変える気はなさそう…。

「逃げませんから、普通に手を繋いでください…」

 立ち止まって後東さんに向かって訴えたら、

「河崎ったら、積極的…」

 耳元で囁いて、指を動かす。指は動かしただけで、握り直さなかった…。

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