逃げられない

『今日、快気祝いをしますので、こちらまで来てください』

 ロールケーキを堪能して戻って来たら、そんな置き手紙があった…。

「誰…?」

 この字は、後東ごとうさん?かな…。多分…。

『体調が悪いので、日を改めてお願い致します…』

 その手紙の余白に書いて、後東さんの机の上に置いた…。

「はぁ…」

 糖分取り過ぎた…。ね、眠い…。意識が朦朧と…。い、いかん…。寝ちゃダメだ…。寝ちゃ……。

河崎かわさき、寝たら落書きしちゃうぞぉー」

 はっ…!

「ね、寝てませんよ…」

 いけない…。いけない…。

「証拠はあるよ…?」

 そう言って、後東さんは携帯端末を見せつける…。我ながら、これは酷い…。白目向いて、口を開けて…。

「可愛いよねぇ…」

「うん。可愛い…」

 この二人に関して、私に対する可愛いの使い方が間違っている…。この歳で可愛いと言われるのもどうかと思うけど…。

「その写真、データ消してください…」

 後東さんと目を合わせると、万遍の笑みで、

「じゃあ、今日のお誘い断らずに付き合って…」

「ごめんなさい…」

 お辞儀して、深々と謝る。いつもなら断らないけど、今日は本当に家で休養をしたいとカラダが訴えている。

「後東と一緒は、ダメ…?」

「むしろ、林檎りんごがいるとダメなんじゃないの?」

「そ、そういうワケではありませんっ」

 二人の顔が近くて、

「見ないでください…」

 思わず、顔を逸らすと、

「だって、河崎のこと好きだもん…」

「だって、河崎のこと好きだから…」

 同じ言葉を同時に言って、

「河崎はイチに興味ないの。いい加減、目を醒ませ。この無駄にイケメンおじさんがっ」

 何だか、口論になりそうな予感…。

「林檎にも興味ないぞ。だって、可愛い彼氏がいるんだからね…」

 ね。と私に目配せする後東さんに、

「いま…」

 いません。と言おうとしたら、

「いるんだよ。って、もうちょっとオトコゴコロをわかろう…?」

 何を理解しろとおっしゃってますか…?

「興味なかったら、飲みに行くお誘いなんてしないよ…」

 保志野ほしのくんのことを言ってるのか…。

「もう会いませんとは言いましたよ…?」

 興味がないと言うよりも、そういう対象で見られない…。酔って思ったことはあるけど…。そういう風に見ちゃいけない存在だから…。

「何で言っちゃったのっ?」

 二人して、何故同じことを…?

「興味ないから、ですかね…」

 今、誰かを恋愛対象として見る気持ちは全くない…。

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