病み上がり

『冷蔵庫に、快気祝いが入ってます  後東ごとう

 食べてね。と可愛らしいシールが貼ってあるが、コレは後東さんではなさそうだな…。

「おはよう…」

 聞き慣れた声に、振り返ると、

河崎かわさきっ!久しぶりっ!」

 その隣にいた林檎りんごさんの熱い抱擁に、

「同性だからって、抱きつくな。パワハラだぞ…」

 後東さんが、正論を言っている…。その驚きは私だけではなく、

「後東所長がまともなことを…」

 黒崎くろさきくんが頭を抱えて、隣にいた志波しばくんは黒崎くんのおでこに手を当てて、

「いつもなら、俺もハグしたいって言いますよねぇ…」

 頷く二人に、後東さんは、

「俺は、変わったのっ」

 言葉ではそう言ってても、体は前と変わらない…。

「な、何、するのよっ」

 後東さんは力を込めて林檎さんを引き離した時に、ほんの少しだけ私の腕を掴んだ。反射的に後東さんを見てしまった…。でも、すぐ目を逸らした…。あまりに真剣な顔だったから、ちょっと引いてしまった…。

「まだ、事務所内の引き継ぎが終わってない…」

 林檎さんはニヤッとして、

「そうだったねぇ…」

 後東さんは早々に自分の席へ向かい、

「そうだ。明日は本社だから…」

 林檎さんは渋々歩きながら、後東さんの元へ向かい、

「でも、私の匙加減で何とでもなるよ…?」

 笑顔で、そんなことを平気で言っちゃうヒトだった…。

「断る」

 後東さんがこんなにも冷たくあしらうことが珍しいので、

「後東所長、レア…」

 黒崎くんが、妄想の世界へと行きそうなところを白坂しらさかさんが戻って来なさいと揺さぶる。

「あ、そうだ…」

 そんな微笑ましい光景に、すっかり忘れるところだった…。休憩室に向かわねば…。

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