目覚めると。

「……ん?」

 ちょっと寝ようと思って、起きたらもう夕方…。か…。あぁ、よく寝た…。

「はい…」

 ちょうど着信があったので、出たら。

『生きてた…』

 後東ごとうさん、か…。

「生きてますよ…」

 寝不足だという自覚はあるので、寝たら治りますよ…。

『病院、行ったか…?』

 行かなくてもいいかも知れない…。脇に体温計を挟んで、

「今、計ってま…」

 落ちた…。手の感覚を頼りに体温計を探す…。

『行ってないのか…』

 溜め息交じりの声が聞こえた。

「はい…」

 あった…。再び、脇に挟む。

『じゃあ、新しい彼氏に付き添ってもらって病院に行きなさい。業務命令です』

 新しい彼氏…?

「高熱でしたら、行って来ます…」

 誰だ…?

『了解…』

 彼氏、いないんだけど…。

「もし歩けなかったら、後東さん呼びます…」

 弱ってる時に、素直に甘えられるヒトが羨ましい…。これでも精一杯の私の甘えだ…。不覚だけど、後東さんくらいしか甘えられるヒトっていない…。

『高熱だったら、すぐ迎えに行くようにするけど…』

 後東さん、優し過ぎるよ…。

河崎かわさき…、大丈夫か…?』

 多分、後東さんは私が今、泣いていることも分かっているのだろう…。

「はい…」

『もっと甘えればいいのに…』

 本当に、甘えたくなるじゃないか…。

「嫌です…」

 これ以上甘えたら、きっと私は後東さんを嫌いになれなくなる…。

『反抗期か…?』

 聞き覚えのある声が遠くに聞こえる…。事務所にいるのかな…。

『彼氏が都合つくなら、彼氏に付き添ってもらうんだぞ…?』

 だから、彼氏いないって…。

「彼氏、いませんよ…」

 後東さんは軽く笑って、

『河崎、らしいな…』

 らしく生きたら、この結果…。

「独り身でいいんですっ」

 悔いないように生きてるから、現状に満足してます…。

『言い切ったな…』

 後東さんが楽しそうに笑って、

『その調子だと、大丈夫そうだな…』

 そうかも知れない…。体温計の計り終える音が鳴った。

「ですね…」

 37度か…。微熱…。安堵感とともに、眠気に襲われる…。まだ眠いのか…。

「微熱でした。また寝ます…」

 おやすみなさい。と言って、電話を切った。

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