異動

河崎かわさき、今日暇だよな…?」

 ヒマだと断定されるのはちょっとイラッとするけど、確かに…。

「比較的、業務に空きはあります…」

 隣で、白坂しらさかさんが笑う。

後東ごとうはプライベートのこと聞いたんじゃないの…?」

 書類の校正をしながら白坂さんは、

「清々しいわね…」

 ツボに入ったのか肩を揺らして笑っている…。

「白坂さんがいる前で誘ったりしないよ…」

 今日に限って、普通だ。と思ったのは、

「後東が理性を保っているわよっ」

 白坂さんも、だった…。

「はい…」

 本当、どうしちゃったんだろう…。

「実は、この事務所に本社から一人異動になったコがいてさ…」

 嫌な予感しかしないっ

館花たちばなさんみたいなコはパスだからね…」

 間髪入れずに白坂さんが言ったら、

「超・優秀だよ…」

 少し笑ってから、真顔で。

「元・嫁が来る」

 元・嫁と言えば…。

「元・嫁って…」

 林檎りんごさんしか思い浮かばないのだが…。

「リンちゃんが来るの…?」

 白坂さんが驚きの顔で、後東さんの元・奥様の名前を言うと、

「そう。そのリンちゃんが来るよ…」

 私を見て、

「そんなワケで、明日付けでリンちゃんが異動となります。俺の引き継ぎで暫くは挨拶回りに…」

 今、すごく重要な事を言った気がしたので、

「後東さん、待ってください…」

 手を挙げ、振りながら、

「所長が、林檎さんになるってことですか…?」

 後東さんは微笑んで、

「そうだよ…」

 そして、白坂さんが私を見て、

「河崎ちゃん、安心して仕事が出来るわね…」

 私の両手を掴んで、

「後東から解放されるのよっ」

 おめでとうって、握手されてしまった…。

「はぁ…」

 おめでたい、のか…?

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