所在不明(2)

河崎かわさきさんって、波須はすさんと連絡取ってますか?」

 志波しばくんから貰ったブラックコーヒーを口に含んだ途端に言うから吹きそうになった…。

「いや、特に今の業務で連絡しなきゃいけないことがないから、ないよ…」

 でも、昨日会ったけどね…。

「そうですか…」

 志波くんが珍しく、しおらしい…。

「志波くん、仕事のことで悩んでるの…?」

「いや、それはないですっ」

 ですよねぇ。と思わず言いたくなってしまったが、抑えた。

「最近、波須さんが直帰してて連絡が取れないんですけど…」

 志波くんが原因とは言えない…。言いたいけど…。

「珍しいね…」

 波須くんは、誰かさんと違ってちゃんとお返事をくれる礼儀正しいヒトだから…。

「そうなんですよっ」

 そして、そんなに波須くんのことが気になるなら…。

「本当、珍しいね…」

 もっと彼のことを意識してあげて。と言いたい…。でも、言えない…。

「俺、何か波須さんを怒らせるようなこと言っちゃったかな…」

 志波くんはうなだれて、紙コップを口に付けた。

「そうなのかも…?」

 多分、志波くんが悪気なく言った言葉に、波須くんは無駄に傷付いちゃったんだと思う…。

「やっぱり、そう思います…?」

 志波くんは、そう言いながら携帯端末を触り…。

「あ、…波須さん?俺です。志波です…」

 波須くんと通話している…。

「今、お時間大丈夫ですか?」

 少し聞こえる声は、いいよ。と言っている…。

「波須さんが何に怒ってるのかわかんないです。でも、波須さんに無視されるのはツラいです…」

 志波くんはくるりと椅子を回転させて、壁に向かい、

「ちゃんと言ってくれなきゃわかんないです…」

 波須くんが言った言葉は少しだけ聞こえた…。好きだと…。

「え…?」

 波須くんは少し混乱しているようだが。

「ちょっと今、河崎さんがいるので別の場所に移動します…」

 少しは、冷静に判断しているようだ。

「はい。行ってらっしゃい…」

 と、手を振った。これで波須くんも少しは報われるのだろうか…。

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