愛のかたち

「珍しいですね…」

 久々に、昔馴染みのバーを訪れるとカウンターには波須はすくんがいた…。

「たまには来るよ…?」

 波須くんは、ココの常連さんで、元・従業員。だから、私がよく来店していた頃も知っていて、きっと職場の誰よりも私の過去を知っている人物だ…。

「そうですか…」

 そして、従業員出入り口からカウンターの中へ入って、

河崎かわさきさんが来たら作るのが決まりですから…」

 色んなものをシェイカーへ適当に注ぎ、シャカシャカと振り始めて、

「そう言えば、彼氏さんと別れたって伺いました…」

 グラスに注いで、淡い紫の…。

「ブルームーンです…」

 波須くん、私のココロを随分見透かしておられる…。

「ありがとう…」

 完全な愛なんて、ないよ…。

「完全な愛なんてないですよ…」

 波須くん…?

「どうしたの…?」

 そう言った波須くんの目から涙が伝う…。

「あ、いえ…」

 もしかして、波須くんの方が今、ツラいことがあるんじゃないのかな…。

「話、聞くよ…?」

 私も、波須くんのことはよく知ってるつもりだ…。

「河崎さんには隠せないって分かってるのに…」

 そして、波須くんは背を向けた…。

「でも、言いたくない…」

「言わなくていいよ…」

 話したくなったら話してよ…。

「はい…」

 波須くんはそう言うと、振り返り、

「あんずさん、ありがとう…」

 泣きながら、笑顔で…。何て可愛いヤツなんだ…。誰だ…。こんな可愛いヒトを泣かせたヤツは…。アイツ、だな…。

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